ヤクルトは7月18日、乳酸菌摂取と乳がん発症との関連を検討する目的で実施した疫学研究の結果、子どもの頃も含めた過去の食習慣で乳酸菌「ラクトバチルス カゼイ シロタ株(L.カゼイ・シロタ株)」を習慣的に取り入れてきた人は、そうでない人に比べて乳がん発症リスクが低いことを確認したと発表した。
同成果は、パブリックヘルスリサーチセンターのがん臨床研究支援事業の一環として実施された研究者主導・疫学研究「乳酸菌摂取と乳がんの関連を検討するケース・コントロール研究」(研究代表者は京都大学医学部付属病院乳腺外科の戸井雅和 教授、統計解析責任者は東京大学大学院医学系研究科健康科学看護学専攻の大橋靖雄 教授)によるもので、同社は同事業に賛同し、協力してきたという。研究の詳細は科学雑誌「Current Nutrition and Food Science」に掲載された。
乳がんは日本人女性がかかるがんの1位となっており、その死亡者数も1950年には2000人以下であったものが、2004年には1万人を超え、今後も罹患者数、死亡者数ともに増え続けることが予想されている。増加の要因としては、女性ホルモンの分泌が盛んな時期の長さに影響を受けることが知られているが、生活習慣、特に食習慣の関わりも大きいことが示唆されており、これまでの疫学研究から、乳がん発症を抑制する食品因子として大豆イソフラボンが報告されているほか、近年の研究からL.カゼイ・シロタ株をはじめとするプロバイオティクスのがん予防効果について関心がもたれるようになってきた。
そこで研究グループでは今回、ケースコントロール研究として、乳がん罹患者(ケース群)と非罹患者(コントロール群)との間で過去の生活習慣を調べ、L.カゼイ・シロタ株および大豆イソフラボンの摂取と乳がん発症の関連性を調査した。
具体的には、ケース群として国内14の病院から選定した40~55歳の女性の初期乳がん患者(術後1年以内)306名、コントロール群として非罹患者662名(ケース群1名に対して年齢および居住地域が似通った人2名)を選定し、面接調査を実施し、10~12歳、20歳、10~15年前におけるそれぞれのL.カゼイ・シロタ株および大豆イソフラボンを含む飲食物の摂取状況を聞き、これら因子と乳がん発症リスクとの相関性を調べた。
その結果、L.カゼイ・シロタ株の摂取頻度を週4回以上と週4回未満で比較した場合、週4回未満の乳がん発症リスクを1とすると、週4回以上のオッズ比は、0.65(p<0.05)となり、L.カゼイ・ シロタ株の摂取頻度が高いほど、乳がん発症のリスクが低減することが示されたという。
また、大豆イソフラボンの1日あたりの摂取量を4群に分けて(Q1:18.76mg/日未満、Q2:18.76~28.81mg/日、Q3:28.81~43.75mg/日、Q4:43.78mg/日以上)比較したところ、大豆イソフラボンの摂取量が多くなるに従って乳がん発症率は、有意に低下すること(p<0.01)、ならびに「Q1群」を1とした時の各群のオッズ比はそれぞれ、0.76、0.53、0.48となり、大豆イソフラボンの摂取量が多いほど乳がん発症を低減することが示されたとする。
さらに、L.カゼイ・シロタ株の摂取頻度4回未満/週かつ大豆イソフラボン摂取量「Q1群」の発症リスクを1とした時、L.カゼイ・シロタ株の摂取頻度4回以上/週かつ大豆イソフラボン摂取「Q4群」のオッズ比は、0.36となり、L.カゼイ・シロタ株と大豆イソフラボンの摂取による相加的な効果が示されたという。
これらの研究結果について、統計解析責任者である東京大学の大橋靖雄教授は「後ろ向きのケース・コントロール研究ではあるものの、過去の食生活、特に乳酸菌および大豆イソフラボンの摂取が乳がんの発症を抑制することが示唆されたのは興味深い。今後、さらなる検証研究が必要と考えられる」とコメントしている。
なお、研究グループでは、今回の結果は、食行動パターンを決める重要な時期である成長期の頃や、乳がん罹患者が増加し始める20歳代から30歳代に乳酸菌を摂取することが乳がんの発症リスクの低減に影響することを示す有用な成果であるとしており、ヤクルトとしても、これまでに表在性膀胱がんの再発予防効果や大腸がん発症リスクの低減など、がん予防に対して有用であることが種々の臨床試験で明らかにされてきたが、今回の研究で乳がん予防の面でも役立つ可能性が示されたことは意義のあることだとコメントしている。