国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は7月16日、女性の統合失調症とうつ病とを鑑別する指標としてMRI(核磁気共鳴装置)により得られる脳の局所的な形態の違いを用いる方法を検討し、およそ8割の正確さで2つの疾患を鑑別する方法を開発したと発表した。
同成果は、NCNP 疾病研究第三部の太田深秀室長、功刀浩部長らによるもの。詳細は科学雑誌「Journal of Psychiatric Research」オンライン速報版に掲載された。
統合失調症やうつ病の診断は、幻覚や妄想、抑うつ気分などの症状の有無を患者に聞くこと(問診)による診断が主で、脳科学的検査による診断法は行われていないため、診断に客観性が乏しく、医師の適切な問診能力と患者の協力がないと診断できないという問題がある。また、統合失調症は病初期や経過中にうつ状態を呈することが多く、うつ病(大うつ病性障害)でも妄想を生じることがあることから、両者の鑑別が難しいケースが多々あるが、これらの2疾患は治療法が大きく異なるため、問診だけでなく、脳科学的方法によって鑑別する方法の開発が求められていた。
そこで研究グループは今回、近年の研究で判明してきた統合失調症やうつ病では疾患に特徴的な脳の形態の違いがあることに着目し、MRIからの情報からこれら2疾患を鑑別する方法の開発を目指した。
具体的には、女性統合失調症患者25名の女性うつ病患者25名それぞれの頭部MRIの情報から疾患に特徴的な脳の形態の違いを検出し、その情報をもとに病気を鑑別できるかの検証を行ったという。
この結果、うつ病と比較して統合失調症では大脳基底核周辺に存在する視床という脳領域に変化が認められやすいことが判明したほか、統合失調症よりもうつ病では帯状回のうち膝下部と呼ばれる脳領域に変化が認められやすいことが分かったという。
実際に、これらの領域の形態の違いを示す数値を今回算出された判別式に導入したところ78%の正確率で2つの疾患を鑑別することができることが示されたほか、同方法を別の患者群(女性統合失調症患者18名、女性うつ病患者16名)のMRIにあてはめた時にも79%の正確率で鑑別ができることが確認されたとする。
これまでの研究でも統合失調症と健常群、うつ病と健常群をMRIによって鑑別することが可能という報告はあったが、うつ病と統合失調症の鑑別についての報告はなかったという。そのため研究グループでは、今回の手法を発展させ、MRIを活用する方法を確立できれば、補助診断法として臨床で役立つことが期待できるとしている。ただし、今回の成果は世界で初めてのものとなるため、この方法が再現されるかどうかは世界の他の研究機関で追試され、確認される必要があるともコメントしている。
なお、一般的に、統合失調症は疾患に特徴的な脳の形態が性別により異なることが知られていることから、研究グループでは今後、男性の患者についても、MRIを用いたうつ病と統合失調症の鑑別する方法を開発することを予定している。