富士フイルムは7月9日、ニキビ・肌荒れに有効な油溶性の抗炎症成分「グリチルレチン酸ステアリル」を、独自のナノマージ技術によって複数の保湿成分と組み合わせ、80nmクラスまで安定的にナノ化し、ニキビができる「毛穴」へ集中的に浸透する新成分「アクネシューター」を開発し、同成分を塗布することで、肌の水分量が増加し、肌内部の保水機能が改善することを確認したと発表した。

ニキビは、毛穴が詰まり、毛穴内部で炎症を起こすことによって発生するが、これまでの研究から、成人後に突発的に発生する「大人ニキビ」は、顔が部分的、局所的に乾燥することが発生要因の1つであることわかってきており、同社ではこの大人ニキビを効率よくケアするためには、顔全体の中で肌が部分的、局所的に乾燥している箇所を集中して保湿すると共に、ニキビが発生している毛穴に、抗炎症成分を効率的に届けることが重要だと考え研究を行った。

具体的には、毛穴は脂性で水溶性成分が浸透しにくいことから、親油性の高い油溶性抗炎症成分を用いることで効率的に抗炎症成分を浸透させることが可能となる。しかし、マメ科の多年草である甘草から抽出される油溶性の天然の植物由来成分で、抗炎症、抗アレルギー作用を持ち、国内で化粧品の油溶性抗炎症有効成分として配合が認められている中で最も親油性が高い「グリチルレチン酸ステアリル」は、結晶性が高いため、そのままの状態では水に溶けにくく効果的に肌に浸透させることができなかった。

そこで研究グループは今回、グリチルレチン酸ステアリルおよび保湿成分を独自技術であるナノマージ技術により80nmサイズまで安定的にナノ化し、化粧品に効果的に配合できるようにしたほか、毛穴へ集中して届けることが可能な成分「アクネシューター」を開発。

グリチルレチン酸ステアリルの光学顕微鏡写真(拡大率約350倍)。結晶性が高いため、安定的にナノ化することが難しい

グリチルレチン酸ステアリルとアクネシューターの透過型電子顕微鏡写真U拡大率約10万倍)。従来技術でナノ化した場合、粒子径が大きいため、溶液化しても光が透過せずに濁って見えるが、アクネシューターでは80nmまで安定的にナノ化されているため、光が透過して見える

アクネシューターの構造イメージ

実際に光学干渉断層画像解析(OCT:Optical Coherence Tomography)を用いて観察したところ、乾燥を改善する「保湿成分」と炎症を改善する「抗炎症成分」の両方が同時にニキビができる毛穴へ集中して届けられ、浸透していることを確認したほか、塗布により肌表面の水分量が増加していることも確認したという。

OCTを用いたアクネシューターを塗布する前後の肌への作用の比較。実験方法としては、塗布前の毛穴の画像データを取得した後に、アクネシューターを皮膚に30分間浸透させ、同じ毛穴の画像データをOCTで取得した。その結果、毛穴内部からの光反射量が減ることにより、OCTの信号強度が1/3程度になることを確認した。この信号変化は、肌のほかの部分に比べて、毛穴内部の光屈折率が変化したことや、毛穴内部に構造的な変化が生じたことなどが原因として考えられるとのことで、これにより毛穴に対してアクネシューターが集中浸透していることが示唆されるという

アクネシューターと水をそれぞれ1cm2あたり5μlずつ肌表層に塗布した後、肌表層の水分量を3回測定し、肌表層への保湿効果を調べた。結果として、アクネシューター塗布後、肌表面の水分量が増加し、その状態が維持されていることも確認されたという

さらに、アクネシューターが肌内部に浸透することで、角層のバリア機能と潤いにおいて重要なタンパク質であるフィラグリンタンパクの産生量が最大約7倍まで増加することで、肌内部での保水機能の改善効果があることが確認されたほか、3次元皮膚モデルを用いて乾燥性炎症モデルを作り、グリチルレチン酸ステアリルに炎症因子PGE2を抑制する効果があることも確認したとしている。

ヒトの皮膚に近い構造の3次元皮膚モデルで、アクネシューターを添加した場合と添加しなかった場合のフィラグリンタンパク量を比較した結果。左がアクネシューターの添加によるフィラグリンタンパク量の変化で、右が3次元皮膚モデル中のフィラグリンタンパクの分布。添加により、フィラグリンタンパクの産生量が最大7倍増加していることが確認できた

なお、同社では今後、同製品を用いたニキビケアに有効なスキンケア化粧品の開発を行っていく計画としている。

乾燥により産出されるPGE2量のグリチルレチン酸ステアリルによる抑制効果。グリチルレチン酸ステアリルを添加した/しない3次元皮膚モデルをそれぞれ用意し、乾燥させた後、炎症因子PGE2の産生量を比較したところ、添加した方では、添加しない方に比べ、その増加量を約1/5に抑制できることが確認された