京都大学は6月25日、iPS細胞の作製を阻害している大きな要因が初期化の成熟であること、ならびに初期化遺伝子の1つである「LIN28」が初期化過程の成熟を促進することによりiPS細胞の誘導効率を上昇させることを見出したと発表した。

同成果は同大 iPS細胞研究所(CiRA)の田邊剛士研究員、高橋和利講師、山中伸弥教授らによるもの。詳細は米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版に6月24日の週に掲載される予定。

体細胞に「OCT3/4」、「SOX2」、「KLF4」、「c-MYC; OSKM」と呼ばれる4つの初期化遺伝子を発現させることで作られるiPS細胞だが、その作製効率は0.2%以下と低いことが知られている。その原因の1つとして、初期化が多くの細胞で始まるのか、あるいはごく限られた細胞でのみ始まるのかが明確になっていないというものがある。

今回、研究グループでは、初期化され始めた細胞でTRA-1-60という表面抗原が特異的に発現することを見出し、それを指標にして初期化効率を経時的に定量したところ、体細胞の初期化は遺伝子が導入された多くの細胞(12~24%)で始まっていることを確認した。

しかし、初期化が完了し最終的にiPS細胞になる効率は0.2%程度であることから、この結果から、初期化の開始ではなく、それ以降のプロセスが障壁となっていると仮説を立て、さらなる研究として、TRA-1-60陽性細胞の解析を実施したところ、75%以上の細胞が初期化される前の状態に逆戻りしiPS細胞にはなれないことが判明したほか、初期化効率を改善することが知られているLIN28が、この体細胞への逆戻りを防ぎ、iPS細胞の作製効率を上げることが確認されたとする。

なお研究グループでは、今回の成果について、iPS細胞の樹立効率の低さのメカニズムの一端を明らかにしたことで、初期化の開始よりも成熟を促進させることで効率の良いiPS細胞の樹立につながる可能性がでてきたとしており、今後、成熟過程を促進する遺伝子や化合物の探索を行うことで、さらなる効率の改善が期待されるようになるとコメントしている。

初期化し始めた細胞が、初期化前の状態に逆戻りし始めた写真。緑の細胞は初期化して、iPS細胞へと向かっている細胞。赤の細胞が初期化は始まったが、初期化前の状態に逆戻りし始めた細胞。青の細胞はさらに逆戻りが進行した細胞

リプログラミング過程を表したモデル図。多くの細胞が4つの初期化遺伝子によって初期化が始まる。しかし、大多数の細胞が初期化前の状態に逆戻りすることで脱落してしまう。その結果iPS細胞の作製効率は非常に低い。LIN28は逆戻りを防ぐことでiPS細胞の作製効率を上げている