岡山大学は6月4日、日内リズムや睡眠に重要なホルモンである「メラトニン」が、脳下垂体の腫瘍の病気である「クッシング病」の原因となる副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を抑制するのに有効であることを、同病のモデル細胞「マウスAtT20」を用いて突き止めたと発表した。
成果は、岡山大 大学院 医歯薬学総合研究科 総合内科学分野の大塚文男教授、同・大学病院 内分泌センターの塚本尚子助教らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月20日付けで内分泌学の国際誌「Molecular and Cellular Endocrinology」に掲載された。
クッシング病は、厚生労働省の特定疾患に指定されている脳下垂体の病気であり、副腎皮質ステロイドホルモンが過剰に分泌され、高血圧、糖尿病・肥満、骨粗鬆症、感染症などのさまざまな症状を呈する難病だ。脳下垂体の腫瘍からACTHが過剰に分泌されることが原因であり、脳外科的な下垂体腫瘍の手術が治療として選択されるが、腫瘍が小さいためMRI検査でも見つかりにくいことが多く、また手術が困難な場合も多い。手術ができない場合には薬物治療が期待されるが、これまで有効な薬剤がないのが現状の問題だった。
そして今回のポイントであるメラトニンは、日内リズムを作るホルモンとして、脳の内分泌腺の「松果体」から産生されている。メラトニンは眼に入る光と共に体内時計の役割を担っており、その分泌リズムは眼から入る光を受けて、脳の視床下部という部位の一部である視交叉上核という神経核が司っている。
またメラトニンの血中濃度は1日のサイクルで変化しており、生体のさまざまな機能に概日リズムを作り出す役割を担う。メラトニンは夜間に多く分泌され、睡眠を促し、体を休ませる働きがある(抗酸化作用を持つことも知られている)。そのため、メラトニンは、不眠治療や時差ボケの解消にも利用されているというわけだ。
今回の研究では、そんなメラトニンの作用が、難病であるクッシング病の原因となるACTHの分泌を抑制することを明らかにした(画像)。研究チームが着目したのが、正常では認められるACTHの1日の分泌リズムが、クッシング病では消失している点である。日内リズムの決定に重要なメラトニンのACTH分泌への影響を検討したところ、ACTH分泌への抑制効果が認められた。また、脳下垂体でACTHの分泌を抑制するタンパク質「BMP-4」の働きを強化することで、これらのメラトニンの作用が発揮されることが突き止められたというわけだ。
今後、さらなる研究を経て、メラトニンをACTH分泌の抑制薬から、クッシング病の新たな治療薬へと応用・発展できる可能性が期待されるとしている。