奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は5月30日、日新電機と共同で、酸化物半導体の一種であるアモルファスInGaZnO(IGZO)を使ったTFTの性能を向上させる高信頼性ゲート絶縁膜を開発したと発表した。
成果は同大 物質創成科学研究科 情報機能素子科学研究室 浦岡行治教授、石河泰明准教授らによるもの。詳細は7月2日~5日に京都で開催される国際学会「IEEE/AMFPD」にて発表される。
スマートフォンやタブレットから大型TVまで、ディスプレイには、薄膜トランジスタ(TFT)が搭載されており、各画素の光の強さを調整するスイッチの役目を果たしている。TFTを利用することで、素早い動きの画像を鮮明に、高精細に映し出すことができる。次世代の情報端末には、より高性能なTFTの実現が求められており、従来のシリコンから、酸化物半導体の一種であるIGZOに近年注目が集まっている。同材料は透明で、従来の非晶質シリコンの10倍以上の電気性能を持つ。また、比較的低温で形成できることが大きな魅力となっており、研究グループは、液体プロセスによって、安価に製造できる方法を2013年4月に発表していた。
しかし、TFTは、IGZOの薄膜の他に金属と絶縁膜の3つの膜の積層構造となっており、電子はIGZOと絶縁膜の界面を流れるため、IGZOを使ってTFTを作る際、スイッチの役目をするゲート絶縁膜については、通電時の電気的ストレスによる安定性が問題視されていた。膜質によって、絶縁膜に電子がトラップされ、電気特性(しきい値)が変動して、電流が少なくなってしまうためだ。
図2 TFTの電気特性。ソースとドレインは、それぞれ電子を供給、排出する電極であり、ソース電極から供給された電子は、IGZOとゲート絶縁膜の界面を走り、ドレイン電極から排出することで、電流が流れることになる |
研究グループでは、この現象がフッ素によって改善することを見出し、日新電機と共同で、アモルファスIGZOを使った薄膜トランジスタに用いるための高品質のゲート絶縁膜として、フッ素を含む窒化ゲート絶縁膜を開発した。フッ素の添加量を増やすことで、しきい値の変動を従来の2.5Vから0.1V以下まで低減し、ゲート絶縁膜に捕獲される電子の量を1桁以上低く抑えることができた。これにより、電気的安定性が向上したほか、絶縁膜のプロセス温度は約150℃と低温であり、柔軟なプラスチックの基板にも用いることができるようになったという。
また、この薄膜は、水分などの浸入を防ぐ性質があるため薄膜トランジスタの最上層の保護膜としても有望で、厳しい信頼性が要求される有機ELを駆動するスイッチの絶縁膜としても期待されると研究グループでは説明している。これにより、IGZOを使った有機ELの普及が加速するなど、次世代の情報端末の開発が加速されるとコメントしている。