現代美術家・村上隆。直近では初監督作品となる映画『めめめのくらげ』が公開されており、鮮やかでポップな色合いの絵画・彫刻で世界的に知られる同氏は、埼玉県・入間郡に"創作の場"「カイカイキキアトリエ」を構えている。同氏の作品は、主にこのアトリエ内で生まれているという。

今回、普段は非公開となっているこのアトリエの内部に潜入する機会を得たので、その様子をお伝えしていきたい。

アトリエ内には、大小さまざまな村上隆の作品が並ぶ

まず非常に驚いたのは、アトリエがまるで物流の倉庫であるかのような規模であったということだ。それもそのはずで、2棟の倉庫をアトリエに改装したもので、ひとりの作家のためのアトリエとしては世界最大級だという。また、100mの大作絵画を制作するため、ふたつの棟の間を貫く渡り廊下を作ってスペースを拡張するなど、絵画制作に最適化するための大規模なリフォームも施されていた。

絵筆など使用した物を洗うための水場(左)と、絵の具が飛び散るような描き方をするためのブース(右)。大きな作品を制作することが多くあるため、制作のための設備にもそれに応じたキャパシティを用意している

内部に入る時に利用したのだが、エレベーターも一般的なものではなく、美術館並みの大きなものを設置していた。倉庫の内部をいくつもの壁で仕切り、大規模な制作ブースをいくつも隣接させているかのような作りになっている。壁も真っ白に塗られており、よい意味で倉庫らしさを感じさせない空間となっていた。

作品の搬出・搬入に用いられるエレベーター

アトリエ内を暖めるため、業務用の赤外線ヒーターがいくつも置かれていた

アトリエを訪れた当時は、同氏の個展に向けた作品を中心にスタッフが制作を行っている最中で、10名程度のスタッフが制作のために作業を進めていた。シルクスクリーンの版を刷る人も、作品を乾燥させている人も、取材のカメラには脇目も振らず作業に没頭していた。

作品制作に没頭するスタッフたち。作業スペースは非常に広大

また、キャンバスに絵の具で描くほかにも、Illustratorなどを用いたPC作業を行うスタッフのための作業スペースも設けられていた。作品の下図づくりやデータ管理など、PCを用いた作業も多く行われているようだ。

アトリエの壁に沿うような形で、デスクワークを行うスペースが複数設置されていた

ワコムの液晶ペンタブレットを導入しているスペースも

絵画制作のための下図や、全景を縮小したプリントアウトなどがアトリエのそこかしこに点在(左)、2012年に発表した全長100メートルの大作「五百羅漢図」の縮小図も(右)

制作している作品数が膨大なだけに、画材の量も尋常ではなく、絵の具の種類も同系色だけで膨大な量が用意されていた。これらの画材にはすべて番号や記号が割り振られ、規則正しく引き出しや棚に整然と収納されていたのは圧巻だった。極めて機能的に整理されており、初めてアトリエ入りした人にでも必要な物が探し出せるような工夫が感じられた。

膨大な数の絵の具。使わない時は、番号が割り振られた引き出しの中に収納される

さまざまな画材のありかを示すボードは、物品をあいうえお順に表にして一覧できるようになっている

今回、アトリエ内を見学し、その規模もさることながら、ギャラリーのように真っ白で清掃が行き届いた空間が強く印象に残った。制作の現場であってもまるで作品鑑賞に来たかのような錯覚に陥るほどに管理の行き届いた環境こそが、同氏の創作を支えているのだろう。

映画『めめめのくらげ』に登場するクリーチャー"ふれんど"のマケット。映画『めめめのくらげ』は、現在、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかで全国順次公開中