北海道大学(北大)は5月7日、先端超精密加工装置で作製した金のナノアンテナで光をナノサイズまで絞り込み増強する技術を開発し、ナノサイズの強力な光で1万分の1mmの粒子(PM0.1)を非接触な力(輻射力)で捕集する実験に成功したと発表した。

成果は、同大 電子科学研究所 田中嘉人氏、兼田翔吾氏、笹木敬司教授らによるもの。詳細は米国化学会発行の「Nano Letters」掲載された。

ナノ粒子は、医薬品、触媒(燃料電池、抗菌性コーティングなど)、化粧品、食品などに広く利用されつつあるが、特に有機物や半導体は、ナノ粒子にすることによって、電気的、光学的に新しい機能を発現することから注目を集めている。しかし、ナノ粒子を有効に機能させるためには、作製したナノ粒子を微細な電気配線や光回路の上にナノメートルの精度で配置する技術が必要となる。

一方、微粒子に光を当てると力が発生し、光の強い方向に引き寄せて捕集できることが知られており、マイクロメートルサイズの粒子を自在に操作して配置する技術が開発されている。しかし、光の力が極めて弱いため、ナノメートルサイズの粒子を光で捕集することは困難とされてきた。

今回の実験では、まず、先端微細加工技術で作製した金のナノアンテナに光を当てることで、光をアンテナの中心にナノメートルサイズまで絞り込んで増強させた。ナノサイズの光は、周りに漂うナノ微粒子に非接触な力(輻射力)を発生させ、粒子はアンテナ中心に引き寄せられて捕捉される。図2は、1万分の1mmの粒子(PM0.1)を光ナノアンテナで捕集することに成功した様子を顕微鏡で観察した画像だ。

図1 光ナノアンテナの電子顕微鏡写真。白線は100nmのスケール。一辺140nm、厚さ30nmの金のナノブロック2個を、先端を10nmだけ離して配置している。このナノアンテナに光を当てると、中心の10nmの空隙(ギャップ)に光が集められて、強力なナノサイズの光スポットを作る。このようなナノアンテナ構造は、先端の超微細加工技術によって作製が可能となった

図2 光ナノアンテナによる1万分の1mmの粒子(PM0.1)の捕捉に成功したことを示すデータ。白線は100nmのスケール。ナノアンテナの上で粒子がブラウン運動する様子を高精度解析技術で画像化した結果。アンテナの中心に捕集され、運動が抑制されていることが分かる

さらに実験では、ナノ粒子がブラウン運動する様子を高精度に観測する技術を開発し、ナノ粒子に働く輻射力を定量的に解析することにも成功。解析結果から、レーザー光をそのまま使った場合に比べて、ナノアンテナは輻射力を3桁以上増強することが明らかになり、研究グループは、ナノ粒子の光捕集技術の実用化に向けた大きな一歩と説明する。

図3は、ナノ微粒子が捕集されるときに働く力を表すデータで、ポテンシャルで表示しており、カーブの微分が力に対応する。ナノ粒子に働く力はフェムトニュートン(1kgの重りに働く重力の1京分の1)レベルだが、これはナノ粒子に働く重力や粘性力よりも大きく、また、ブラウン運動を抑えることができる力だという。図4は、ナノ粒子に働く力の分布をナノメートルの解像度で画像化したデータで、これによりナノアンテナの中心や尖った位置に引き寄せる力が働いていることが明らかになった。

図3 ナノ粒子に働く輻射力を定量的に解析したデータ。ナノ微粒子が捕集されるときのポテンシャルを表している。ナノ粒子に働く力はフェムトニュートン(1kg の重りに働く重力の1京分の1)レベルであり、レーザ光をそのまま使った場合に比べて、ナノアンテナは輻射力を3桁以上も増強することが明らかになった

図4 ナノ粒子に働く力の分布をナノメートルの解像度で画像化したデータ。ナノアンテナの尖った位置に引き寄せる力が働いていることが明らかになった。このデータは、当てる光の状態を変えると、働く力(輻射力)の分布を自在にコントロールすることができることを示している

なお、ナノアンテナの中心は、ナノ粒子の電気的、光学的な機能を発現するためにも最適な位置であり、高機能電子素子、光デバイスとしての応用が期待される。また、ナノアンテナによる光捕集は、溶液中のナノ粒子一粒を捕集して計測する技術にも応用できるため、生体微粒子に適用すれば高感度バイオセンサへの応用も期待されるという。さらに、ナノ粒子の光感受性に依存して輻射力が変化することを利用すれば、粒子を大きさや形、材質で選別して捕集することもできると研究グループではコメントしている。