――ところで、この映画の予告には、村上さんの代表的な作品のひとつである「Miss Ko2」(通称:ココちゃん、2は上付き文字)が「ふれんど」たちと戦っているようなシーンが含まれています。「ふれんど」は、作中の子供たちが1人につき1体連れている、大人には見えない不思議な生物で、「くらげ坊」をはじめ動物のような姿をしています。そんな"ふれんど"に対抗する相手として、人の形をしたココちゃんを登場させた意図をお教えください。
「ふれんど」は子供達の負のエネルギーの象徴としてあって、この映画に登場する「ココちゃん」は、巧というハッカーの子供が作り出したキャラクターだという設定なんです。彼は、自然に出てくる「ふれんど」をそのまま使うのではなく人為的に作れるので、彼自身の好みが反映されているという文脈です。それで、ああいうメイド服のキャラクターを作ったということにしました。あくまで、作中の「ふれんど」というフォーマットで作られたんです。
――この作品を制作するにあたり、「悪魔くん」や「ゲゲゲの鬼太郎」など60~70年代のサブカルチャーに強く影響を受けているとのことですが、それらの作品の文脈のみならず、ご自身の作品までも映画の中に登場させた理由はどこにあるのでしょうか?
この作品は当初、外国で上映したいと考えていました。僕は外国では現代美術作家としてよく知られているので、「ココちゃん」などを出したほうがいいのかなと思ったんです。ロサンゼルスで世界プレミアを行った時は、ココちゃんが出た瞬間に(観客たちが)ワーッと拍手したんですね。だから、やっぱり出してよかったなと思いました。ただ、日本ではそういう現象は起きません。オークションの構造がわからずに、金儲けの象徴としてのアイコンとされているのでね。
――それは、日本と海外でアートに対する温度差があるということでしょうか。
アートに対する興味があまり無いというか、まぁ、アートへの無知とも言えるかと思います。日本で紹介する時は、「あの6,800万円で落札されたココちゃんが劇中に出る」という形でネットなどで記事が上がっていましたが、そうしたことでしかなかなかフックがないというのは事実なんですよね。
――村上さんの作品が受け入れられている海外での反響は好評とのことですが、2月のティーチインの際にお聞きした言葉をお借りするとすれば「日本に向けて「村上隆の芸術の世界観」を世に問う作品」として作り上げたとお聞きしました。その理由や、あえて日本に向けて作品を作り上げた思いなどをお聞かせください。
当初は外国の方々に向けて作品を作っていたのですが、「日本の人たちに向けて」と思ったのは、2012年の10月にギャガさんでの日本配給が決まってからです。その頃はCG制作をしているちょうど真っ最中で、CG部隊が最終的に300人以上になったんです。この体制だったら、例えば新カットを何分か入れてストーリーをねじ曲げることも可能、つまり日本人対応の作品にもできると思ったんです。
――それだけCGを多く用いていたということであれば、日本での配給が決まってから、ストーリーに関してもかなり手を入れられたのでしょうか?
はい、修正しています。とはいえ、分かりづらい部分だとは思います。音楽の入りどころであるとか、冒頭やエンディングのシーンとか、日本人の僕が観客となっている感覚ですね。映画の内容はけっこう概念的なんですが、「アートを理解している西洋の人々」に対してというアプローチではなくて、できる限り、少しでも分かりやすくなるようにチューニングしました。
――CG制作スタッフが十分確保できたことで、アートの文脈を理解していない人にも分かりやすく作り替えられたということですね。
そうですね、「アート」というわけではないですけれど、本当にちょっとしたところで、日本の人たちに向けたメッセージをより強調したつもりです。