東北大学は4月24日、地球に落下した隕石から超高圧環境でのみ生成されるシリカ(SiO2)の超高圧相(ザイフェルタイト)を発見したと発表した。
同成果は同大大学院理学研究科地学専攻の宮原正明 助教と大谷栄治 教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)、広島大学、岡山理科大学らによるもの。詳細は4月24日付で英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に公開された。
月にはクレーターが無数にあるほか、その表層は細かな岩石(レゴリス)の層で覆わており、かつて激しい隕石の衝突が起きていたと考えられている。また、太陽系の誕生直後は、現在に比べ、大量の小天体が衝突を繰り返されていたと考えられているが、そうした天体同士の衝突の際には、衝撃波から高い圧力が発生することとなる。その高圧が、天体を構成する物質に加わるとより高密度な物質(高圧相)に変化することが知られており、この高圧相を調べることで、過去の様子を探ることが可能である。しかし、太陽系形成時の名残ともいえる小天体から地球に飛来する隕石には多数の高圧相が含まれていることが確認されているものの、月は巨大なクレーターなどの隕石衝突の痕跡がありながら、これまでほとんど高圧相は発見されていなかった。
研究グループは今回、玄武岩で構成され、月に起源を持つ隕石として2006年にアフリカ・モロッコにて回収された「Northwest Africa (NWA) 4734」を入手し、観察を実施。その結果、SiO2にSiO2高圧相特有の組織を発見したという。
同組織はμmオーダーのサイズであったことから、X線解析実験を大型放射光施設SPring-8を用いて行ったところ、同高圧相が、1999年に火星起源の隕石から発見され、2004年に国際鉱物学連合にて新鉱物として承認された「α-PbO2型シリカ相(ザイフェルタイト)」であることが判明した。
ザイフェルタイトが火星起源以外の隕石から発見されたのは今回が初めてだという。同鉱物は、一対のダイヤモンドを対向させ、両側から力を加えることで地球の中心部に相当するレベルの超高圧も発生可能な装置「ダイアモンドアンビルセル」を用いることで人工合成が可能であり、このことから合成には少なくとも40万気圧以上の超高圧条件が必要となる。
この結果、同隕石は少なくとも40万気圧以上の超高圧環境にさらされたことが考えられ、研究グループでは、月の表層でこのような超高圧環境が発生するのは隕石衝突時以外にはあり得ないと説明する。
また、放射年代測定の結果、その隕石の衝突が27億年前に生じたことも判明。
従来の研究では、月では38~41億円前に集中的に隕石衝突が起きていたと考えられており(後期隕石中爆撃期)、実際に研究グループも2011年に、その証拠となる高圧相の存在を確認している。
今回の成果は、その後期隕石中爆撃期の後も、少なくとも27億年前までは月において激しい隕石の衝突が発生していた可能性を示すもので、研究グループでは、月のすぐ傍らにある地球でも隕石の重爆撃が起きていた可能性があると指摘するほか、地球では27億年前頃に原始生命圏が形成されつつあったことから、隕石重爆撃が原始生命圏の進化に影響をおよぼした可能性があるとする。
なお、地球にも隕石の衝突を示す痕跡として多数のクレーターが確認されているものの、古い時代のものはすでに消失している。しかし、月では月が形成された45億年前から現在に至るまでの隕石衝突の歴史がほぼ残されていると考えられていることから、研究グループでは、月に記録された隕石衝突の歴史を研究することで、地球への隕石衝突史を明らかにすることが期待できるとコメントしている。