テクトロニクス社は4月10日、パワーアナライザ市場に新たに参入すること、ならびに同市場向け第1弾製品となる高精度プレシジョン・パワーアナライザ「PA4000シリーズ」の提供開始を発表した。

パワーアナライザは、パワー・エレクトロニクスのエンジニアによって、主に多相のパワー・エレクトロニクス・デバイスの設計、テスト、検証向けにモータ駆動回路、電気推進、バックアップ電源、代替エネルギー、高効率照明などの分野で用いられているが、近年の世界的な省エネへの要望の高まり、自動車のエレクトロニクス化の加速、SiCやGaNといった新デバイスの台頭などがあり、急速に市場が拡大している。テクトロニクス社のマーケティング部部長である田中雅彦氏は、「エネルギー関連、特に電気自動車や再生可能エネルギー分野でのパワー解析のニーズが世界的に高まっている。これまで我々もパワープローブやオシロスコープを提供することで対応を図ってきたが、カスタマからトータルソリューションで同分野をカバーしてもらいたいというニーズを受けて、パワーアナライザへの参入を決定した」と、その背景を説明した。

新市場への参入をする場合、すべてを自前で用意するか、すでに参入している企業を買収するなどしてその資産を継承するといった2種類の方法があるが、今回同社は後者を選択。Voltechの持つ知的財産、パテントおよび製品デザインを含むパワーアナライザ技術全般を取得(Voltechは2013年9月30日付でパワーアナライザビジネスより撤退)して、同市場への参入を果たした。

これにより同社が提供するオシロスコープとパワープローブ、パワーアナライザと、同社子会社のケースレーインスツルメンツが提供するパラメトリックカーブトレーサーとソースメータ(SMU)を組み合わせることで、パワー解析に向けたすべてのソリューションが提供できるようになった。

テクトロニクスとケースレーの組み合わせによりパワー解析のトータルソリューションを提供することが可能となった

実際のパワーアナライザはシステムやコンプライアンスの計測に用いられ、高調波や位相角、効率などの測定を行う。オシロスコープでも測定できるものがあるが、パワーアナライザの方が測定に対する精度が高いほか、各規格に対するコンプライアンス試験への対応がなされているといった特徴がある。

対象アプリケーションは電源関連すべて。今、注目を集めているのはグリーンエナジー、省電力/高効率電源、電気自動車の3つのアプリケーション。

今回発表されたPA4000シリーズでは、パワーアナライザで最も重要なスペックである測定確度として電圧/電流基本測定確度0.04%を実現している。この測定確度は実環境下でも同程度の確度を安定して提供することが可能であり、決してスペックシート上のものであったり、校正期間も1年と実用に耐えるものになっている。

また、1~4ch(各chごとに14ビットA/Dコンバータを搭載し、1MHzの周波数帯域)の入力に対応し、外部インタフェースとしてもUSB、LAN、RS-232Cを標準装備しており、さまざまな用途に対応することが可能となっている。

14ビットADCを搭載し、1MHzの周波数帯域に対応することが可能なほか、クレスト・ファクタ10に対応するなど、高い性能を実現している

背面にはUSBのほか、LAN、RS-232Cを標準装備。USBは前面にも1ポート用意されている

さらに特許申請中の独自技術「スパイラル・シャント(Spiral Shunt)技術」を用いることで、多くのアプリケーションで一般的に見られる歪みが大きい電力波形であっても、安定した正確な電流測定を実現することが可能となっている。またチャネルごとに2つのスパイラル・シャント(最大1Aの正確な低電流測定用と最大30Aの大電流測定用)を内蔵することで、最大測定電圧は1000VRMS、2000Vpeakを実現している。

最大入力電流30A側のスパイラル・シャント

最大入力電流1A側のスパイラル・シャント

加えて独自のDSPアルゴリズムを採用することで、ノイズや瞬時変動のある被測定信号に対しても安定した周波数トラッキングを実現できるほか、クレスト・ファクタ(波高率:波形)として従来のパワーアナライザが6などだったのが10まで対応可能としており、SiCやGaNなどの次世代パワーデバイスへの対応が可能となっている。

このほか、GUIとしては、電圧や電流の実効値や有効/無効電力、皮相電力、クレスト・ファクタ、周波数、位相角度、積算有効電力量などの表示が可能なほか、高調波測定では100次まで対応している。また、オートレンジ機能を搭載しているため、信号が変化しても高速に追従して、漏れなく測定することが可能なほか、特定アプリケーション向けのテストモードも用意。例えばPWMモータ駆動テスト、待機電流テスト、電子バラストテスト、積分モードなどが用意されており、こうした各種操作はフロントパネルに配置されたボタンを1タッチするだけで切り換えることが可能となっている。

高い精度で幅広い測定が可能

特定アプリケーションに対しては専用のモードも用意されている

外部のPCを用いて解析するソフト「PERVIEW」も用意されており、測定データのダウンロードや特定アプリケーション用テスト、レポート作成などを行うことも可能だ。

なお、同シリーズはすでに受注・出荷を開始しており、価格は1入力品が108万円(税別)、2入力品が143万円(同)、3入力品が168万円(同)、4入力品が198万円(同)となっている。「かなり戦略的な価格に設定した」と同社では説明しており、特に次世代パワーデバイス(SiCやGaN)による歪みでこまっているカスタマを中心とした、今のパワーアナライザによる測定で困っている分野への参入を皮切りに市場シェアの拡大を目指していきたいとしている。

高精度プレシジョン・パワーアナライザ「PA4000シリーズ」の概要。右のスライドはアクセサリ

PA4000シリーズ 4入力品の外観。入力ch数は、購入後にアップグレードで最大4入力まで拡張が可能なため、最初は1~2ch品を購入し、必要に応じて4chまで拡張といったことも可能。ただし、その場合、校正をし直す必要があるため、一時預かり扱いになるという

各種の表示項目もフロントパネルのボタンを押すだけで切りかることが可能