慶応義塾大学(慶応大)は4月3日、遺伝性平滑筋腫症-腎細胞がん症候群(HLRCC)の新たながん化の機序の可能性を解明したことを発表した。
同成果は同大学先端生命科学研究所の曽我朋義 教授、オックスフォード大学のPollard博士らによるもので、詳細は国際科学会誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。
HLRCCは、がん抑制遺伝子であるフマル酸ヒドラターゼ(FH)をコードするFH遺伝子の変異が原因となって発症する常染色体優性遺伝性疾患であり、女性では若年で子宮平滑筋腫症を発症することが知られているほか、早期発症型の腎のう胞や2型の腎乳頭がんなどの多様な腎腫瘍を発症することも知られているが、がん化の詳しい機序はこれまで不明となっていた。
そこで研究グループは今回、メタボロームならびにプロテオーム解析によるFH変異マウスの実験を行い、FHの変異によって代謝されずに蓄積したフマル酸が異常に増加し、全部で94種類のタンパク質のシステイン残基にフマル酸が非酵素的反応で結合していることを発見。また、フマル酸が結合したこれらのタンパク質は機能が阻害されている可能性が高く、実際にクエン酸回路で重要な働きをしている酵素「アコニターゼ2(ACO2)」がフマル酸の結合により働きが阻害され、クエン酸回路が機能不全に陥っていることを確認したという。
さらに、FH遺伝子を欠失させたマウス肺性線維芽細胞やHLRCCの腎がん患者の腎臓組織にて解析を行ったところ、マウスと同様にこれらの試料でもフマル酸の蓄積およびACO2にフマル酸が結合していることが判明した。
これらの結果は、FH遺伝子の欠失によるフマル酸の蓄積が、タンパク質の翻訳語修飾や重要な代謝を阻害することにより、早期発症型腎のう胞形成やがん化に関与している可能性があることを示すものであり、研究グループでは今後も先端科学技術を活用することで、人類の健康に貢献していきたいとコメントしている。