名古屋大学(名大)は2月27日、NUエコ・エンジニアリングとの共同研究により、独自開発した「非平衡大気圧プラズマ(非熱大気圧プラズマ)」源を用いて、従来の固形がんに加え、今まで効果的な治療法のなかったがんの播種(髄腔内播種、腹腔内播種)を治療できる可能性のある技術を開発したと発表した。

成果は、名大医学部付属病院 先端医療・臨床研究支援センターの水野正明 教授、同・大学院医学系研究科 産婦人科講座の吉川隆 教授、同・大学院工学研究科 プラズマナノ工学研究センターの掘勝 教授らによるもの。詳細な内容は、プラズマ医療国際学(ISPM)会誌「Plasma Medicine Journal」2月13日号に掲載された。

脳の神経細胞と神経線維のすき間を埋める「グリア細胞」から発生する腫瘍「グリオーマ」は、治療の難しい病気で、手術だけでは解決できず、化学療法や免疫療法、放射線療法が用いられているが、現在の治療法だけでは根治が難しいため、革新的な治療法が求められている。

今回、研究グループは独自に開発した高電子密度非平衡大気圧プラズマ源を用いてプラズマ照射された培養液(プラズマ培養液)を作り、それをグリオーマ培養細胞に投与する形で抗腫瘍効果の評価を実施した。

その結果、プラズマ培養液を投与したグリオーマ培養細胞は未照射の培養液を投与したものと比較して、有意に生存細胞数が減少することが見出されたことから、正常細胞として「アストロサイト培養細胞」にも同じ条件でプラズマ培養液を投与したところ、正常細胞には生存細胞数にさほど影響を与えないことを確認したという。

さらに、プラズマ培養液がグリオーマ培養細胞を死に導く細胞内分子機構の解明に向けて研究を進めたところ、プラズマ培養液が脳腫瘍培養細胞において増殖・生存シグナリングネットワークのハブとなる「AKT分子」を抑制し、アポトーシス(プログラム細胞死)を誘導することを発見。アポトーシスは、ネクローシス(壊死)による細胞死とは異なり、炎症反応を起こしにくいという利点があることから、研究グループではプラズマ溶液が周囲の組織へのダメージを抑えながら、脳腫瘍を治療するのに有望な治療法になる可能性があるとしている。

なお研究グループでは、プラズマから細胞死に至るまでに、気相、液相でのプラズマとの相互作用を経て、細胞内シグナル伝達経路に影響を与えると考えられるとしており、今後、そうした複雑なプロセスの分子機構の全貌を解明することを目指すとしているほか、その過程で、プラズマが正常細胞に影響を与えることなくがん細胞を選択的に殺傷する分子機構を明らかにすると共に、臨床応用に向け、より効率的かつ副作用の少ないプラズマの条件を探索していく予定としている。

今回用いられた実験方法。プラズマ溶液を用いた細胞増殖アッセイ