石川県金沢市が主催するデジタルメディアイベント「eAT KANAZAWA 2013」(イート・カナザワ、以下eAT)が、今年も錚々たるゲストと多数の参加者を迎えて1月25日、26日の2日間にわたり開催された。このレポートでは、同イベントの2日目午後に行われた、6つのテーマについて各分野のプロフェッショナルが語るセミナーの様子をお伝えする。

【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【1】
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【2】
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【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【7】

Super Lecture 6

これまで3時間近く、まったくの休みなしで続いたセミナーも、いよいよオーラスである。最後に登壇したのはMOVIDA JAPAN代表取締役の孫泰蔵氏だ。 テーマは「B+Startup」。自身もこれまで数々のベンチャー企業の起ち上げを行ってきた孫氏は現在、その経験を生かし、国内外のベンチャー支援・育成に力を注いでいる。eAT初日に行われたクリエイティブプレゼンテーションでプレゼンを行ったある若手ベンチャーも、孫氏の支援を受けているそうだ。

孫氏の経歴は説明するまでないと思われるが、簡単におさらいしたい。東京大学在学中、兄・孫正義氏からYahoo!JAPANの起ち上げを任されたところから同氏のキャリアは始まる。なかなか自分の進む道が定まらなかったが、Yahoo!のジェリー・ヤンとデビット・ファイロとの出会いで大きく道が開けた同氏は語る。

これまでに孫氏が創業に関わった会社は、ここ10年でもかなりの数に登る。同氏は、そのことについて「たくさん失敗して、ちょっとだけ成功した」と振り返る。最近ではガンホー・オンライン・エンターテイメントの『パズル&ドラゴンズ』が大ヒット。App Storeで世界1位を獲得。600万ダウンロードという数値をたたき出した。

40歳となった孫氏にとって今なお楽しいことは、会社を見つけてその起ち上げに参加することだ。しかし、それを頑張れるのもあと20年ぐらいだろうと語る。それならば、もっと多くのスタートアップの支援するためにできることを考えよう。そんな思いから一年半前にMOVIDA JAPANを起ち上げた。キーワードは「ベンチャーエコシステム」だ。

サンフランシスコのベイエリア、シリコンバレーではなぜ世界を席巻するベンチャーが毎年生まれてくるのか。それは、ベンチャーを支援するエコシステム(生態系)があるからだと孫氏は説明する。日本を含むアジア圏には人やお金はあるのに、ベンチャーを育む生態系がない。だから、2030年までに、シリコンバレーのような生態系を東アジアに作って、世界一の規模にしたい。こんな思いを会社の大きなミッションとして、手探りではあるがこれまでの経験、人、ネットワークを生かしたベンチャー支援事業を開始した。

ここ最近、ブームのように言われている「ベンチャー」。だからといって起業自体が目的であってはならない。すべての起業の目的は、社会の生産性を上げるためといえるだろう。誰かを犠牲にせず、時間とコストを下げて本質的な生産性を上げていくために必要な技術やサービスの提供が、起業の目的であるべきだ。それには「学びではなく、真似び」からスタートしてほしいと孫氏はいう。すでにその事業活動は進んでいるが、まだまだ若い人のアイデアを募集し、支援してきたいと語る。

「具体的なアイデアプロトタイプ、そして仲間が重要だ。そのアイデアの具体化のためにまずは500万円を出す用意がある。採用となれば毎週のスクーリングであらゆるアドバイスも行っていく」と語る。同氏が実際にこの事業をはじめてわかったのは、ベンチャーたちに横のつながりができ、質が高まっていくことだ。「MOVIDAはまだまだ収益事業にはなっていない」というが、今後は年に2、3回の投資家を前にしたプレゼンも始めていく。そこでさらなる援助が獲得できたベンチャーは、次のステップへ進むことができる。また、他地域への展開も視野にあるといい、「京都、福岡、そして金沢にも拠点を置きたい。日本から世界に出て行けるような仕組みを作りたい」と語った。

孫氏がセミナー最後に示したスライドは、自身の座右の銘である最澄の「一隅を照らすもの、これ国の宝なり」という言葉だ。大事なのは、世の中をよくしたいと思うアイデア。バンドを作るように、そのぐらいの人数で始めよう。今、ベンチャーの民主化がおこっていると思う。思いついたらすぐにできるネットワークが大切なキーになる。それによって一隅は照らされるはずだ。チャレンジしたい人は、ぜひともその門戸を叩いてもらいたいと締めくくった。

(取材:Mac Fan/小林正明、岡謙治)