パルコに縁のあるアーティストたちのコラボレーション作品が一堂に会する展覧会「シブパル展。」に、広告をフィールドに活躍するクリエイティブディレクター井上嗣也と箭内道彦による共同作品「Brother Sun, Sister Moon」が展示されている。

クリエイティブディレクター・箭内道彦

パルコの広告表現において、コピーライターの糸井重里や仲畑貴志と共に一時代を築いた井上嗣也。そして、彼からバトンを受け取り、2000年代以降のパルコの広告を手がけた箭内道彦。井上がグラフィックを、箭内が言葉を担当したグラフィック作品「Brother Sun, Sister Moon」に込められた思いを、同展の内覧会に出席した箭内道彦に語ってもらった。

――今回、この「シブパル展。」で展開されている、箭内さんと井上さんのコラボレーションの経緯をお教えください。

このコラボレーションに関しては、パルコさんからご提案いただきました。伝説的とも言えるパルコの広告を手がけてこられた井上さんと、2000年以降の広告を作ってきた僕とで、一緒に作品を作ってみませんか、と。

井上さんのところにも同時期にこの提案がなされたのですが、僕とのコラボレーションを快諾してくださったと知り、感激しました。ああ、それならば僕から断る理由は何もないな、と。

――箭内さんにとって、井上さんはどのような存在と言えるのでしょうか?

僕自身、特にどなたかの弟子であった時代もないのですが、勝手に「僕は井上嗣也の弟子である」と感じているんですよ。井上さんから直接的、あるいは間接的に教えていただいた"ものの見方"に影響を受けていまして、それがあって、広告をはじめとしたさまざまな作品づくりができていると感じます。

そんな井上さんと今回こうやって名前を並べていただいて、胸を貸していただいている。そのことに、本当に感動しています。このように感動している状態こそがコラボレーションと言ってもいいかもしれません。(互いの表現が)拮抗していたり、激突していたりしなくても、大好きなんだって思って隣にいることも、僕はコラボレーションだと思うんです。

今日、この内覧会でお会いする方々はみなさん、「これらの作品をどうやって作ったんですか」ってよく聞いてくださるんです。だけど僕は、それ以前に、井上さんと一緒にいた時間こそが貴いものだと思っています。この企画があったことで、井上さんと直接お会いして、何度も話す機会をいただいたと言えますし、やりとりの中で、今お互いがどんなことを思っているのか意見を交換することができました。その結果こそが、この作品なんだと思っています。

――それでは、今回のコラボレーション作品の方向性はおふたりで決定したのでしょうか?

実を言うと、ほとんど井上さんが決めてくださいました。ただ、井上さんは、僕とやることになったからいろいろなことが思いついたんだとおっしゃってくださって。こちらとしては、そんな楽なコラボレーションはないじゃないですか(笑)

でも、僕はそれもひとつのコラボレーションのかたちだと思っています。この例とは立場が逆なんですが、僕は自分がモノを作るとき、それが本当に面白いのか、必要なのか、そして、これが自身の最後の作品になってもいいのか。そんな問いを、いつも忌野清志郎さんに投げかけて、彼に決めてもらっているんです。もちろん、(忌野さんは故人なので)直接聞くわけではないのですが、この企画を彼が喜んでくれるかな?、驚いてくれるかな?、と考えていくことで、自分自身が勝手にディレクションされていくという感覚です。なので、今回僕は「弟子」という立場で、井上さんと気持ちの交流みたいなことができて、すごく嬉しかったですね。

――この作品のテーマは「Brother Sun, Sister Moon」ということですが。

これは、井上さんとお話している中で生まれたものですね。ふたりで話し合うなかで、「月と太陽」、「brother sun sister moon」というキーワードが生まれました。遠く離れている月と太陽ですが、今は人と人同士も遠く離れ、世の中がバラバラになってしまったと思います。

――「バラバラになってしまった」というのは具体的にどのようなことでしょうか?

例を挙げれば、原発事故は人と人とをバラバラにしたし、また原発推進と原発反対という対立軸でも、人同士の距離が離れていってしまった。でも、バラバラになったままでは前に進むことができません。

それではどうしたらいいか?と考えた時に、"考えの違う者同士がお互いを認めあい、尊敬しあうところから始まるんだ"という思いが膨らんで、この月と太陽というキーワードに行き着きました。また、このことは、今回の「シブパル展。」全体にも言えることだと思います。

誰かと誰かがコラボレーションを行って、新しいことが生まれる。こんなプロセスが、今、日本にとても必要なことだと思うんです。同じ考えの人同士が集まって、内輪で認め合ったところで前には進めない。自分の思いを言った後に、人とどう繋がって、調整していくのかが大切なんです。このことを、作品に添えた言葉にもこめましたし、実際に作品を見て、感じてほしいと思います。

――ありがとうございました。