総合研究大学院大学(総研大)の研究者を中心とする研究チームは2月7日、「さそり座J1604星(2MASS J16042165-2130284)」と呼ばれる若い星の周囲にある原始惑星系円盤を「すばる望遠鏡」を使って観測し、惑星が作る「穴」、そして穴をまたいで内部に伸びる「腕」構造を直接撮像することに成功したと発表した。
同成果は、すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト SEEDSの一環として行われ、総研大の眞山聡 助教を主体として、日米台独仏の55名によるもの。詳細は米国の天体物理学専門誌「Astrophysical Journal Letter」(2012年12月1日号)に掲載された。
太陽系は、約46億年前に生まれたばかりの太陽の周囲にガスや塵が円盤状(原始惑星系円盤)に形成され、その円盤内において塵が集積することで微惑星が生み出され、さらにその微惑星同士が合体や成長、ガスを捕えるといったことを経て、最終的に惑星になったものと考えられている。
中心にある恒星が数百万歳の年齢に達する頃になると、原始惑星系円盤の中心部分からガスや塵が無くなっていき、惑星が活発に形成されると考えられている。このとき、惑星の材料となる塵は円盤の外側に豊富に残るものの、内側では消失しつつあるため、円盤内に穴(空洞)が生じることとなる。この穴は円盤内ですでに誕生している惑星の影響で作られた可能性があるため、惑星誕生の謎を解き明かす鍵と考えられてきたが、すぐ近くに明るい中心星があるために、円盤内側に存在する穴を観測で直接とらえるのは困難であったほか、穴内部に惑星形成の兆候を示すような構造を持つ天体は、これまでほとんど見つかっていないという問題があった。
今回、研究チームは、そうした惑星誕生の謎の解明に向け、すばる望遠鏡に搭載された惑星探査用赤外線カメラ「HiCIAO」ならびに大気揺らぎの影響を補正する補償光学装置を用いて、地球から距離約470光年にある、年齢が約370万歳で、太陽と同程度の質量のさそり座 J1604を対象として観測を行った。
その結果、地球型惑星の主材料である塵粒子が、中心星からの赤外線を散乱した光を世界最高クラスの精度となる0.07秒角の解像度で、とらえ、中心星を取り囲む原始惑星系円盤、円盤上の穴、円盤内縁から穴をまたいで内部に伸びる腕状構造、円盤上の非対称なくぼみ構造、といった穴をまたぐ腕を写し出すことに成功したほか、その腕が曲がっていることを突き止めることに成功したという。
すでにアルマ望遠鏡を用いた電波観測により「HD 142527」という星にガスでできた腕構造が発見された例があるが、塵でできた腕構造が太陽と似た質量の天体で直接検出されたのは、今回が初めてたという。また今回の観測から、写し出された円盤の内縁半径は63天文単位で、中心星から腕までの距離はおよそ太陽と海王星の間の距離に匹敵する33天文単位であることが計測された。
盤と惑星との相互作用についての理論的研究では、円盤中に惑星が存在した場合、惑星からの重力により、弧状に曲がった構造が惑星周囲に作られることが知られているが、今回のJ1604星で見つかった腕構造の形状や曲がる角度は、そうした理論研究による予想とよく似ているとのことで、この腕は生まれつつある惑星によって作られたものであると考えられると研究グループは説明する。また、惑星は円盤内に非対称な構造も作ることも知られており、今回の観測でも、円盤にくぼみ部分が見られており、そうした例ではないかとしている。
さらに、穴の成因としては、いくつかの説が提唱されているが、今回の観測で検出された穴の深さと幅が、惑星形成理論で提言されている「惑星が作る穴」と良く一致していることが確認されたことから、J1604には埋もれて隠された惑星があることが示唆されたと研究グループで説明。おそらく中心星から40~50天文単位の領域に惑星があるとの見方を示している。
なおJ1604は、円盤が地球に対してほぼ正面向きであるため、円盤内部の構造を観測しやすい向きとなっている。そのため原始惑星系円盤の構造をモデル化するのに理想的な天体であり、今後も引き続き、実態により近い詳しい理論を作り上げるための研究を進めていくことで、どのような環境であれば惑星は生まれやすいのかという謎の解明につながることが期待されると研究グループでは説明している。