名古屋大学(名大)は1月27日、同大学の太陽地球環境研究所が北海道陸別町において運用している大型短波レーダー装置が、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)後にオホーツク海上の電離圏(電離層)内を伝搬する各種の振動を観測し、今回大型短波レーダー装置を用いて、GPS受信機網などではとらえられない超高速(6.7km/s)で伝搬する変動も観測することに成功したと発表した。
成果は、太陽地球環境研究所の西谷望 准教授、名大の小川忠彦 名誉教授らの研究グループによるものだ。
太陽地球環境研究所は平成18年度に北海道陸別町の陸別観測所に設置した大型短波レーダー装置(画像1・2)により、電離圏におけるさまざまな変動の観測を継続して行い、太陽エネルギー放射の変動が地球環境に影響を与えるメカニズムの解明を進めている(画像3)。なお、大型短波レーダー装置のスペックは以下の通りだ。
- 使用周波数:8~20MHz
- 最大瞬間出力:10kW(平均出力:約250W)
- 時間分解能:1秒~2分
- 空間分解能:15km~約100km
- ビーム幅(水平方向):約5度
- ビーム幅(鉛直方向):約40度
- ビーム方向:水平方向に16チャンネル
- パルス幅:100~300マイクロ秒
- 最大到達距離:約3500km
画像1。北海道陸別町に設置した大型短波レーダーの観測視野図。国外のほかのSuperDARNレーダーの視野も示してある。点線は建設準備中の第二大型短波レーダーの視野である |
画像2。大型短波レーダーシステムの概観図。右奥方向に電波を発射する |
大型短波レーダーの国際ネットワークである「SuperDARN計画」は現在12カ国(日本、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、フィンランド、スウェーデン、アイスランド、オーストラリア、南アフリカ、中国)の国際協力の下に進められており、本計画の短波レーダーはこのSuperDARN計画に参加して重要な役割を果たしている。
近年は地震などの地表面における擾乱現象が電離圏変動を引き起こすことがGPS受信機網などによる観測で明らかになりつつあり、地表変動と電離圏擾乱の間の関係に関する研究が注目を浴びている。同短波レーダー装置はこのような研究にも威力を発揮することが期待されていた(画像3)。
今回の研究においては、太陽地球環境研究所の大型短波レーダー装置と日本国内GPS受信機網のデータを活用し、2011年東北太平洋沖地震に伴うオホーツク海上のさまざまな電離圏変動の特性の詳細な調査が行われた。画像4は、震源と大型短波レーダーの観測視野を示したものだ。
画像4。2011年東北太平洋沖地震の震央と北海道陸別町の大型短波レーダーが観測している視野の位置関係。扇形の円周に書かれている番号がレーダーの電波を発射する方向(ビーム番号)になる。GPS受信機網は日本国内1200点以上に設置されている |
その結果、GPS受信機網ではとらえられない6.7km/sという高速で伝搬する変動も存在することが見出されたのである(画像5・6)。GPS受信機網と大型短波レーダーの観測データにおけるさまざまな擾乱現象の見え方の違いは、観測法や観測している物理量が異なることによるものと考えられるという。
画像5は、大型短波レーダーで観測した東北太平洋沖地震に伴う電離圏の振動の様子。横軸が時刻、縦軸がレーダー装置から震央とほぼ反対方向(画像4に描くビーム番号4の方向)に沿った距離である。地震の発生時刻は14時46分23秒。15時頃以降、電離圏のプラズマを上下方向に激しく揺さぶる振動が最大6.7km/sで伝わっていく様子が示されている。
画像6は、画像5とGPS受信機網により観測した電離圏電子密度変動分布を重ね合わせた図。上段が大型短波レーダーで観測した東北太平洋沖地震に伴う電離圏の振動の様子、下段がGPS受信機網により観測した電子密度変動の様子である。
横軸が時刻、縦軸が震央からほぼ反対方向に沿った距離である。大型短波レーダーで観測された最大秒速6.7km で伝わっていく振動がGPS 受信機網では観測されていないことがわかる。
なお、研究グループでは大型短波レーダーによる観測により、GPS受信機網でとららえられない高速で伝搬する擾乱現象をとららえられることが判明したことにより、大型短波レーダーが観測点の設置が困難な海上を含む広域において、地震に伴うさまざまな擾乱のモニタリングに活用できる可能性が示されたとコメントしている。