九州大学(九大)は1月22日、緑茶に多く含まれるカテキン(緑茶ポリフェノール)の1種「エピガロカテキンガレート(EGCG)」が、血管を弛緩させる経路として知られている一酸化窒素/「cGMP」経路を活性化することで、正常な細胞は傷つけずにがん細胞を特異的に殺傷する新たな仕組みを発見したと発表した。

さらに、一酸化窒素/cGMP経路を阻害する酵素である「ホスホジエステラーゼ5(PDE5)」が腫瘍において高発現しており、男性性機能障害治療薬として用いられているPDE5阻害剤を併用することで、EGCGの抗がん作用を飛躍的に増強できることを明らかにしたことも併せて発表した。

成果は、九大大学院 農学研究院の立花宏文主幹教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間1月25日付けで米国科学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に掲載された。また、今回の研究成果は、同誌印刷版の2月号の表紙に取り上げられると共に、注目研究(JCI Impact)に選ばれた。

がんは日本人の死因の第1位であり、その予防・治療法の確立は重要な課題となっている。緑茶は体脂肪低減作用や抗アレルギー作用などの生体調節作用があり特定保健用食品としても利用されている機能性食品だ。

抗がん作用に関しては、緑茶や緑茶特有の成分であるEGCGの摂取が前立腺がんや胃がんに対して抗がん作用を発揮するとの研究がある一方、そうした効果を否定する報告もあり、緑茶の抗がん作用には不明な点が多く残されていたのである。

立花主幹教授らは、これまでに「67kDa laminin receptor(67LR)」という細胞膜表面にあるタンパク質にEGCGが結合することでがん細胞を選択的に殺傷することを明らかにしてきた。しかし、EGCGがどのようにしてがん細胞を殺傷するのか、そのメカニズムの詳細は不明だった。今回の研究から、EGCGは67LRを介して一酸化窒素合成酵素を活性化し、勃起や血管を弛緩させる経路として知られている一酸化窒素/cGMP経路を介して「プロテインキナーゼCδ」ならびに「酸性スフィンゴミエリナーゼ」という酵素を活性化することで、がん細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導することを発見したというわけだ。

EGCGは、67LRを介して一酸化窒素合成酵素を活性化し、プロテインキナーゼCδ/酸性スフィンゴミエリナーゼを活性化することでがん細胞にアポトーシスを誘導する

EGCGががん細胞を特異的に殺傷する仕組みはわかったが、緑茶を数杯飲んだ程度で吸収される量のEGCGでは十分な抗がん作用を発揮できない。そこで、EGCGの活性を阻害している因子ががん細胞にあるのではないかと探った結果、cGMPを分解することが知られているPDE5がさまざまながん細胞(多発性骨髄腫、膵臓がん、前立腺がん、乳がん、胃がん)で正常細胞と比べて高発現しており、EGCGの抗がん作用を阻害していることが明らかとなった。

PDE5がさまざまながん細胞で正常細胞と比べて高発現することでEGCGの抗がん作用を阻害していることが確認された

さらに、男性性機能障害治療薬として臨床的に用いられているPDE5阻害剤でその働きを抑えたところ、低容量におけるEGCGのがん細胞致死活性を飛躍的に増強できることが判明。つまり、67LRの活性化剤とPDE5の阻害剤の併用は、これまでにないまったく新しい概念に基づいた治療戦略として有望であることが示されたのである。

がんの化学的治療において選択毒性と薬剤耐性は重要な問題だ。EGCGは正常細胞と比べ腫瘍に高発現している分子を標的としていることから、がん細胞のみを選択的に殺傷できる可能性があるという。

また、今回発見したEGCGのがん細胞致死機構は既存の抗がん剤とはまったく違う仕組みであり、今後、既存の治療薬に効果がないあるいは既存の治療薬に抵抗性を持ったがんに対する治療薬の開発に結びつくものと期待されると、立花主幹教授らは述べている。