SC12に出展した各社の展示

SC12は、ユタ州の州都Salt Lake CityのSalt Palace Convention Centerで開催された。Salt Lake Cityは末日聖徒イエス・キリスト教会(いわゆるモルモン教)の本山の町として有名である。

モルモン教は戒律が厳しいのであるが、Salt Lakeでお酒が飲めないという訳では無く、町にはスポーツバーやパブも多くあったし、会場近くのスポーツバーでは、SC参加者を当て込んで、歓迎の幕が掲げられていた。

SC12が開催されたSalt Palace Convention Center

末日聖徒イエス・キリスト教会の本山のJoseph Smith Memorialビルディング

戒律の厳しいモルモン教の街であるが、お酒が飲めない訳では無く、会場近くのスポーツバーにはSC12の歓迎の幕が掲げられていた

GSAスキャンダルで米国政府機関のカンファレンス予算が1件50万ドルに制限されたことから、2012年は、DoE(Department of Energy)傘下のLLNL(Lawrence Livermore National Laboratory)、ORNL(Oak Ridge National Laboratory)、LANL(Los Alamos National Laboratory)などの大研究所がブースの出展を取りやめた。また、DoD(Department of Defense)傘下の研究所のブースも見られなかった。しかし、NASAやNCAR(National Center for Atmospheric Research)などは出展していたし、スパコン「Stampede」を持つTACC(Texas Advanced Computer Center)やスパコン「Blue Waters」を持つNCSA(National Center for Supercomputing Applications)なども出展していた。

それでも、NASAは例年、研究内容を入れたUSBスティックを配っていたが、今年はそれが無く、展示もパネルが中心で、予算的にはかなり抑えたという感じの展示であった。また、他の政府系の研究機関の展示も例年より予算を絞ったという感じは見られた。

Press Roomの白板では、参加者は9822人とのことで、1万人には届かなかったが、昨年と比べて殆ど落ち込みは見られなかった。展示ブースは334で、企業のブースの数は過去最多という。

Press Roomの白板。54カ国からの参加で、参加人数は9822人。展示は334ブースで、SCinetの外部へのバンド幅は790Gbit/s、Student Clusterに高校(Skyline High)が初参加と書かれている

今年は、Top500が第40回、20年の節目ということで、Top500の展示ブースが設けられ、歴代の1位マシンのパネルなどが展示されていた。

今回はTop500開催20周年の展示ブースが設けられた

CRAY

今回のTop50の1位はORNLのTitanであるが、DoE傘下のORNLは展示を行っておらず、メーカーであるCRAYのブースにもTitanに関する目立った展示は見られなかった。CRAYのブースのメインの展示は、SC12の直前に発表したCascadeというコード名で開発されてきた「XC30」スパコンである。

CRAYの展示ブースの風景

CRAYブースに展示された新製品のXC30

XC30のコンピュートブレード

XC30に関しては、別のレポートで詳しく紹介しているので、詳細は、そちらを参照いただきたい。

IBM

Top500で2位となったSequoiaであるが、これもLLNLの展示はなかった。一方、SequoiaのメーカーであるIBMは例年通り、密度の高い展示を行っていた。DARPAのUHPCプロジェクトで開発され、Blue Watersに使うはずだったp775 HPCサーバ用の巨大ブレードや、SequoiaのBG/Qのノードボックスも展示されていたが、これらは前回も展示されており、新味はない。今回の目玉ハードはp775の半分の4MCM(16 POWER7チップ)を搭載する空冷のp460とiDataPlex用の水冷ノードである。この水冷ノードはDIMMの間に板状の薄いパイプを入れ、そこに水を流してDIMMを冷却していると言っていた。

また、iDataPlex用のXeon Phiを2台搭載するシャシーも展示されていた。余談であるが、Xeon PhiとNVIDIAのTesla(K20)は大部分ののサーバメーカーのブースで見られ、IntelとNVIDIAのマーケティングが火花を散らしているという感じであった。

POWER7+を8MCM、32チップ搭載するp775の水冷巨大ブレード

P775の弟分で4MCM、16チップ搭載のp460ブレード

iDataPlexの水冷ブレード

CPU、DIMM以外の主要なLSIも水冷している

iDataPlexにはXeon Phiも搭載できる

富士通

Top500 3位の京コンピュータのメーカーである富士通は、京コンピュータをベースにCPUのコア数を倍増したSPARC64 IXfxのウェハとPRIMEHPC FX10 1筐体のシステムを展示していたが、これは前回と同じ展示である。その他にx86クラスタスパコンとして使われるPRIMERGY BX400 S1ブレードサーバを展示していた。今回は展示品が少なく、ゆったりした感じのブース作りであった。

富士通ブースの風景

XeonクラスタのPRIMERGY BX400S1ブレードサーバ展示

京コンピュータベースの商用機のPRIMEHPC FX10を展示

DELL

Top500の7位となったStampedeのメーカーがDELLである。しかし、DELLの展示は、Stampedeを前面には出さず、淡々と製品を展示しているという感じであった。Stampedeに使われたC8200ブレードサーバは展示されていたのであるが、Xeon Phiの搭載はアピールされていなかった。

DELLブースの風景

Stampedeにも使われているC8200ブレード

Bull

フランスのBullはTo500の11位であるCurieのメーカーである。また、Top500の15位で日本国内では京コンピュータに次いで2位のHelios(青森県では六ちゃん)もBull製のスパコンである。

Bullのハイエンドの水冷のB710ブレード

空冷のB510ブレード。CurieやHeliosはこのブレードを使っている

SGI

SGIはTop500の14位のNASAのPleiadesのメーカーである。Pleiadesなどの大規模スパコンはICE-Xを使うクラスタスパコンであるが、SGIはNUMALinkという独自開発のテクノロジを持ち、UV 2000サーバは、最大256ソケットで64TBという巨大共通メモリを実現する。今回は、ICE-Xの水冷CPUブレード、UV2へのXeon PhiやK20 GPUの搭載が展示されていた。

SGIブースの風景

ハイエンドHPC向けの水冷のICE Xツインブレード

NUMAで巨大共通メモリを実現するSGI UVのノード。今回はXeon Phi搭載をアピール

HP

HPはIBMについでTop500のシステム数が多いメーカーであるが、Top500の中では、17位の東工大のTSUBAME2.0が最大のシステムである。しかし、これもNECがインテグレーションしており、ハイエンドのスパコンに力を入れている感じは薄い。また、今回はブースの場所が展示場の端に近い、他の大きなハードメーカーのブースから離れた位置で、ちょっとさびしい感じであった。

興味を惹かれたのは、HPブースにほど近い位置にブースを構えたARMベースのサーバチップメーカーのCalxedaのブースに展示されていたHPロゴのついたサーバである。Calxedaチップを使ったHPの実験サーバのRedstoneであると思われる。

HPブースの風景

Calxedaのブースに展示されていたHPのARMサーバRedstone

Appro

ApproはTop500の29位でLLNLに設置されているZinスパコンのメーカーである。日本国内では、Top500の51位にランクインした筑波大のHA-PACSのメーカーでもある。クラスタスパコンのメーカーとして頭角を現してきたが、SC12直前の11月9日にCrayに買収されるということが発表され、11月21日にはCrayから買収完了との発表がなされている。したがって、Approの名前での出展は、これが最後となる。

Approブースの風景

ApproのクラスタスパコンXtream-X

日立製作所

日立はTop500の95位の核融合科学研究所のPlasma Simulatorのメーカーである。このスパコンはPOWER7を搭載するSR16000である。このSR16000の2筐体が日立のブースの正面に展示されていた。IBMのp775と同じボードを使っており、前回は、このボードが展示されていたが、今回は見かけなかった。

SR16000の発熱で沸かしているわけでもないのであろうが、隣に「ゆ」の温泉マークの旗が下がっていた。

日立の展示ブース。中央にみえる黒い筐体がSR16000。なぜか右側に赤い「ゆ」の温泉マークが見える

NEC

NECはTop500の17位の東工大のTSUBAMEのベンダにもなっているが、自社のコンピュートサーバを使うシステムとしては、217位の第2世代地球シミュレータが最大規模のシステムである。

富士通が次世代スパコンの国家プロジェクトで京コンピュータを開発し、それをベースにFX10を製品化したのに対して、NECは降りてしまったので、製品の間隔が空いてしまった。製品の端境期であり、次世代のSX-10のローンチまで365日という看板を掲げて、近いうちに次世代機が出るとアピールしていた。ただし、この看板は電光掲示板ではなく、展示期間中に日数はカウントダウンされていなかった。

ドイツNEC開発のLXシリーズのボードは、前回もMICパートナの看板が出ており、今回はXeon Phiを載せた形で展示されていた。

NECブースの風景

次世代のSX-10のローンチまで365日という看板

ドイツNEC開発のLXシリーズクラスタスパコンのボード。Xeon Phiの搭載をアピールしている

Eurotech

イタリアのEurotechはTop500では252位のAuroraスパコンのメーカーである。空冷をまったく必要としない完全水冷のシステムで、筐体の前面パネルがカラーLCDという特徴のあるハードウェアである。ここに何を表示するかにもよるのであるが、他社の実用一点張りのパネルに比べるとセンスを感じる設計である。

EurotechのAuroraは前面がカラー液晶

バックプレーンは両側に冷却水のコネクタが付いている

水冷のCPUブレード

Xeon PhiとFPGAのアクセラレータ

Convey

ConveyはFPGAボードで特定処理を加速するサーバを作っているメーカーでTop500にランクされたシステムは無い。これまでは、2ビット計算で済む遺伝子マッチングなどバイオ分野や暗号解読などの政府機関への販売が中心になっていたようであるが、今回、専用のメモリカードで最大32TBのメモリまでスケールするようにしたMXシリーズを発表し、展示を行っていた。

Conveyのアーキテクチャはメモリバンド幅が広く、それにFPGAによる並列処理エンジンが付くというもので、インメモリのビッグデータの処理を高速化しようという製品である。今回のGraph500ではfox6という16コア(4筐体?)のMXシステムが14.56GTepsで44位にランクインしている。

FPGAで作ら得た可変構造のアプリケーションエンジン4個を搭載するMXシリーズ

MXシリーズ用の専用メモリカード