東京大学(東大)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)、総合科学研究機構(CROSS)は1月9日、世界最高クラスの室温伝導度となる19Scm-1を持ち、約1万気圧というこれまでで最低の圧力下で金属状態となる純有機単成分導体の開発に成功したと発表した。

成果は、同大 物性研究所の森初果 教授、同 磯野貴之 特任研究員、同 上田顕 助教、同 加茂博道 元大学院生、KEK 物質構造科学研究所の村上洋一 教授、同 熊井玲児 教授らのグループ、ならびにCROSSの中尾朗子 副主任研究員らによるもの。詳細は「Nature Communications」に公開された。

通常、有機物質は絶縁体で、例えば電線の絶縁被覆材料としてポリ塩化ビニルが広く用いられている。しかし、絶縁材料としてばかりでなく、銅線のような高伝導性の単成分有機材料を開発することが、有機エレクトロニクス分野における課題となっており、これまで、電子供与性分子と電子受容性分子の2成分以上からなる電荷移動有機化合物は、電気を流す担体である自由電子(あるいはホール)が生成されるため、低分子系の有機超伝導体や高分子系導電体が開発されてきた。一方、単成分からなる有機導体として、開殻型の中性有機物質の開発も進められてきたが、分子間の相互作用が弱く、電子間のクーロン斥力の影響により、室温伝導度が10-6~10-1Scm-1の半導体にとどまっていた。

今回の研究では、電子供与性分子間の強い水素結合を利用した新しいタイプの純有機単成分導体を開発した。研究グループは、この新しいタイプの純有機単成分導体が世界最高クラスの室温での電気伝導度となる19Scm-1を持っており、約1万気圧というこれまでで最低の圧力下で金属化することを発見した。

この新たに開発された純有機単成分導体は、2個の電子供与性分子が強い水素結合で連結され、2分子間の中心に水素が位置している高対称性の分子ユニットを形成している。分子ユニット内では、各電子供与性分子は酸化され、電気を流す担体となる正電荷を生成しており、水素結合部分の負電荷を考慮すると、分子ユニット全体として電気的に中性な開殻状態となっている。さらに、量子化学計算を行った結果、電荷は水素結合を形成する酸素にも存在しており、水素結合を介して分子ユニット全体に広がる特徴を持つことが分かった。また、この分子ユニットは、自己凝集により2次的な電気伝導層を形成し、さらにこの2次元伝導層が水素結合で連結された3次元構造を形成していることも分かった。これらの結果から、この純有機単成分導体が世界最高クラスの室温伝導度を持ち、約1万気圧下で金属化する理由が、分子ユニット内における電荷の非局在化とユニット間相互作用による2次元伝導層の形成であることが判明した。

無機物質と異なり、有機物質は一般に可溶性なので、今回の純有機単成分導体も、印刷法を用いて製膜して電子デバイスを製造するプリンテッドエレクトロニクスへの応用が考えられる。そのため研究グループでは、今回開発された純有機単成分導体について、単成分低抵抗配線のような次世代の有機エレクトロニクス材料として用いられることが期待されるとコメントしている。

純有機単成分導体の分子ユニット構造とその電気抵抗率。研究グループが開発した世界最高の室温伝導度となる19Scm-1を持つ純有機単成分導体は、水素結合で連結されて、電気的に中性な高対称性分子ユニットから構成される。このユニットでは、電気を運ぶ担体となる電荷が広く非局在化し、さらに、ユニットが自己凝集して2次元伝導層を形成するため、約1万気圧というこれまでで最低の圧力下で金属状態となる