東京大学は12月25日、「PIWI-interacting RNA(piRNA)産生培養細胞」である「カイコBmN4」細胞を用いた「ChIP-seq」法、「TSS-seq」法および「RNA-seq」法により、「piRNAクラスター」におけるヒストン修飾や転写様式および転写ユニットをゲノムワイドに同定することに成功し、その結果から、piRNAクラスターが新規な外来配列からpiRNAを産生するのに必要な特徴を明らかにすることができたと発表した。

成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 博士課程3年(当時)の河岡慎平氏、同・修士課程2年(当時)の原加保里氏、同・修士課程1年(当時)の庄司佳祐氏、同・嶋田透教授、同・勝間進准教授、東大 新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 博士課程2年の小林真希氏、同・菅野純夫教授、同・鈴木穣准教授、東大 分子細胞生物学研究所 RNA機能研究分野の泊幸秀准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、12月20日付けで「Nucleic Acids Research」に掲載された。

真核生物は、遺伝情報を生殖細胞を通してほぼ正確に次世代へと受け継がれる仕組みを持つ。ところが、真核生物のゲノムには、正確な遺伝情報伝達を妨げる「トランスポゾン」と呼ばれる利己的因子群が存在する。

近年の研究により、この利己的な配列からゲノムを護る特定のゲノム領域が存在することがわかってきた。この領域はpiRNAクラスターと呼ばれ、piRNAというトランスポゾン抑制に関わる小分子RNAを産生することが知られている。

ショウジョウバエやマウスを用いた研究から、このpiRNA経路に異常が生じると、精子形成や卵形成が正常に行われなくなり不妊になることが解明済みだ。すなわち、piRNAは自身の遺伝情報を次代に伝えるために必須の小分子RNAなのである。

これまでのショウジョウバエを用いた一連の研究から、piRNAクラスターは「ヘテロクロマチン」であるといわれて来たが、ゲノムワイドにpiRNAクラスターとヒストン修飾との関連を示した研究は皆無だった。

その主たる理由は、piRNAが存在する生殖細胞には体細胞も混ざっており、生殖細胞におけるクロマチン修飾状態だけを調査することが困難だったからである。

研究グループは、2009年にpiRNA産生経路を完全に保持する培養細胞であるカイコ卵巣由来BmN4細胞を発見。この細胞は、piRNAが作られる仕組みの解明に貢献してきた。

しかし今回の研究では、ChIP-seq(染色体免疫沈降法によって特定のタンパク質に結合するゲノム断片を取得し、それを次世代シークエンサーによって塩基配列の決定を行う手法)や、TSS-seq(次世代シークエンサーによって転写開始点、Transcription start site:TSS)を決定する手法)およびRNA-seq(次世代シークエンサーによって転写産物の配列を決定する手法)により、piRNAクラスターにおけるヒストン修飾や転写様式、および転写ユニットをゲノムワイドに同定することが試みられた。

その結果、今までヘテロクロマチンであると考えられてきたpiRNAクラスターの一部が「ユークロマチン」の性状を持つことを明らかにした。

また、特定のpiRNAクラスターから転写されるpiRNA前駆体が「RNAポリメラーゼII」によって転写され、「5'-cap構造」や「3'-poly Aテイル」を保持することも発見されたのである。

これらの結果から、特定のpiRNAクラスターはユークロマチン状態、すなわち転写が活発に行われているヒストン状態であり、それが新たなトランスポゾンの捕獲を効率的に行える理由であると考えられたというわけだ。