東京大学と愛知教育大学は11月27日、米オレゴン州立大学の協力を得て、「統合国際深海掘削計画」による「ルイビル海山列掘削試料」を用いた研究により、マントル深部から煙突状に立ち上がる上昇流であるホットスポットが、個別に移動していることを明らかにしたと共同で発表した。
成果は、東大 大気海洋研究所の山崎俊嗣教授、愛知教育大の星博幸准教授、米オレゴン州立大のAnthony A.P.Koppers准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、11月25日付けで英国科学誌「Nature Geoscience」オンライン版に掲載された。
ホットスポットは、マントル深部から煙突状に立ち上がるマントルの上昇流「プルーム」であり、その上をプレートが移動することにより海底に海山列が形成される(画像1)。
マントル深部に起源を持つホットスポットは地球上に10個程度存在し、その位置は不動であるものとして1960~70年代にプレートテクトニクスが確立して以来、過去のプレート運動を知るための基準として用いられてきた。これは高校の地学の教科書にも書かれている。
しかし、最近になって、ハワイ・ホットスポットの軌跡である天皇海山列の掘削結果から、ホットスポットが約8000万年前から5000万年前の間に、南へ緯度で約15度(1700km)移動した可能性が指摘された。
もしホットスポットが個別に移動しているとすれば、これまでのプレートやマントルについての研究に根本的な見直しが必要となるため、ほかのホットスポットについての研究が待たれていたというわけだ。
日本(海洋研究開発機構:JAMSTEC)と米国の主導によって2003年10月からスタートし、深海底を掘削することによって地球環境変動の解明、地震発生メカニズムの解明および地殻内生命の探求などを目的とした、現在は26カ国が参加する国際研究協力プロジェクトの統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program:略称IODP)の第330次航海において、2010年12月~2011年2月に南西太平洋ニュージーランド沖のルイビル海山列を構成する5つの海山の掘削が実施された(画像3・4)。
第330次航海では、東大大気海洋研究所の山崎教授とオレゴン州立大のKoppers准教授が共同主席研究者をつとめ、愛知教育大の星准教授が古地磁気学研究者の1人として参加した。
ルイビル・ホットスポットは、ハワイ・ホットスポットと同じく太平洋プレート内にあり、マントル底部を起源とする典型的なホットスポットと考えられている。
その軌跡であるルイビル海山列を掘削して、ハワイ・ホットスポットとは独立に運動をしているのか、あるいは、地球のコア(核)に対して地殻とマントル全体が一体として移動する「真の極移動」などにより両者が揃って移動しているのかを確かめることが、掘削の第1の目的だった。
溶岩が冷却して固まってできた火山岩は、それに含まれる強磁性鉱物により微弱な磁気を帯びている。この磁気の方向は、溶岩が冷却した時の地磁気(古地磁気)の向きとなっていて、高感度の磁力計で読み取ることが可能だ。つまり、古地磁気の伏角から、その溶岩が噴出した場所の当時の緯度がわかるのである。
ホットスポットで形成された海山列では、もしホットスポットが不動なら、どの海山でも形成時の緯度はホットスポットの現在の緯度と同じになるが、もしホットスポットが移動したなら、海山が形成された年代により形成時の緯度が異なる具合だ。
掘削された試料から、ルイビル・スポットは、約7000万年前でもほぼ現在の緯度付近にあったことが明らかとなり(画像5)、ハワイ・ホットスポットと揃って移動したのではない、つまりホットスポットは個別に移動することが明らかになった。
画像4は、ルイビル海山列から掘削された岩石試料の古地磁気伏角測定結果。測定方法が異なる赤と青の2種類のデータセットは、ルイビル・ホットスポットの現在の位置における地磁気伏角の値(約-69度、灰色の線)と誤差の範囲内で一致し、これはルイビル・ホットスポットの南北の移動が小さかったことを示している。
ホットスポットが個別に移動する原因の説明としては、マントルの流動に影響されてプルームがたなびくという「マントル・ウインド・モデル」がある。このモデルに基づけば、ルイビル・ホットスポットは南北にはあまり動かないことが予測されていたことから、このモデルが基本的には成り立つことが確かめられた次第だ。
今回の研究成果を基に、今後、マントルの流動によりホットスポットが移動することを取り入れた新しいプレート運動像が構築されると考えられるという。プレート運動は、地震・火山噴火を初めとする地球のさまざまな変動の原動力であり、地球の変動についての理解がより深まると期待されるとしている。
また、より高精度のモデルを構築するためには、大西洋やインド洋に存在するホットスポットの運動の実態についても調べる必要があり、将来IODPで掘削することが検討されている。さらに、真の極移動の実態についても、従来はホットスポットが不動であるものとして構築されていたため、今後見直されることになるとしている。