NECと東京大学、NECエンジニアリング、セルクロス、帝人は10月2日、電子機器の無線LAN通信と電力供給を1枚のシート上で実現する技術を開発したと発表した。

同技術は、伝送シート近傍に閉じ込められた電磁波を、電子機器に装着した専用の部品(カプラ)で受けて、通信と給電を実現するもの。これにより、伝送シート上の場所を選ばすに、電子機器にマイクロ波帯の電磁波を使った高速通信と、伝送効率25%以上の給電が実現する。

従来、伝送シートを用いた通信と電力の伝送は、シートやカプラからの電磁波の漏洩が大きいこと、電力の伝送効率が小さいことなどから、実用化が困難だった。今回、シートとカプラの構造を見直し、電磁波制御技術と高効率伝送技術を開発することで、空間への電磁波の漏出を小さく抑えながら、高い伝送効率を実現した。

技術的な特徴は3つ。1つ目は、伝送シートとカプラにおける電磁波の漏れを抑制する技術。伝送シートからの電磁波の放射を抑えるため、シート端部を導体で覆うとともに、シート内部のメッシュ状の配線パターンを最適化。また、機器に取り付けるカプラにおいて、特定の周波数の電磁波を遮断する小型EBG構造を開発し適用した。これらにより、電磁波の外部への放射を従来技術と比較して1/10以下に抑制し、空間との干渉を抑えた通信と電力伝送が可能となった。

2つ目は高効率・安全な伝送を実現する共振回路設計技術。伝送シートとカプラ間のワイヤレス電力伝送を低損失に実現する構造を開発し、カプラに利用。また、電磁場を弱めるための保護層を伝送シートに採用した。これらにより、高効率な電力伝送と、シート表面に置かれた電子機器や人体を強い電磁場にさらすことのない安全性を実現している。

3つ目は高信頼な伝送シート。耐熱性、耐湿性、高耐荷重など、実用的な耐久性を有する伝送シートを開発。また、電磁波を発生させて伝送シートへ入力する電力供給ユニットとシートを一体化させた。

同技術を用いて60cm四方の伝送シートを試作し、無線LANの周波数である5GHz帯で高速通信を行いながら、2.4GHz帯で4W以上かつ伝送効率25%以上の給電が可能なことを実証した。外部空間への電磁波の放射や、直接手で触れた際の人体への電磁波吸収は、電波防護指針の基準値以下であり、実用化に向けて十分に安全なことを確認したという。

開発した伝送シートを机の表面に設置することで、会議やオフィスにおいて、パソコンなどの機器へのシート表面だけに限った安全なコードレス給電と、他の無線LANなどとの干渉がない安定した通信ができるようになる。さらに、手元照明や扇風機などをコードレスで利用しながら、複数のディスプレイとパソコンをワイヤレスで通信するなど、快適に作業できるオフィス環境も実現するとしている。