農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、新潟大学、理化学研究所(理研)の3者は、登熟期の高温で発生し米の品質を損なう「乳白粒」が生じる原因が、デンプン分解酵素「α-アミラーゼ」が高温条件下で活性化されるためであること、このα-アミラーゼを抑制することで乳白粒を抑制できることを共同で発表した。

成果は、農研機構 中央農業総合研究センター 作物開発研究領域の山川博幹主任研究員、同・羽方誠特別研究員、新潟大農学部 応用生物化学科の三ツ井敏明教授、理研 植物科学研究センター 生産機能研究グループの榊原均グループディレクターらの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、9月12日付けで学術誌「Plant Biotechnology Journal」にオンライン掲載された。

近年全国的に水稲の「登熟期」(稲穂が出て米が稔っていく時期。品種や地域によって異なるが、概ね8~10月上旬)の気温が上昇している。高温年であった2010年には、乳白粒の多発による品質低下が全国的に大きな問題となったほどだ。

イネ種子の胚乳(いわゆる白米の部分)は、デンプンの粒が密に充填されており、そのため通常は半透明の外観を示す。ところが、種子が稔る時期に高温に遭遇すると、デンプン粒の充填が不十分となり、空気の隙間が残ってしまう。

この隙間が光を乱反射するため、白く濁って見える乳白粒となる。収穫した玄米に乳白粒が多く含まれると米の検査等級が低下し、価格が下落してしまう。そのため、乳白粒の発生しにくい品種や栽培技術の開発が求められており、新潟県上越市にある中央農業総合研究センター北陸研究センターでは、高温で乳白粒が発生するメカニズムの解明と対策に取り組んできたのである。

今回の研究では、「マイクロアレイ解析」と「メタボローム解析」という2つの方法で、高温条件で乳白粒の発生に関わる遺伝子や代謝反応が探索された。

登熟期に高温処理を施した種子の胚乳では、デンプンを合成する遺伝子の発現が低下するだけでなく、デンプンを分解する酵素であるα-アミラーゼ遺伝子の内5個の発現が上昇し、α-アミラーゼの酵素活性も上昇したのである(画像1・2)。また、この時にα-アミラーゼの発現を抑制する働きのある植物ホルモンの「アブシジン酸」の種子含有量が低下していることも確認された(画像3)。

高温によるα-アミラーゼ活性(画像1(左))および遺伝子発現(画像2)の上昇。高温ですることによって、デンプン分解酵素のα-アミラーゼの活性および遺伝子の発現が上昇した

画像3。高温にアブシジン酸量の減少。高温で登熟することによって、主旨中に含まれるα-アミラーゼ抑制植物ホルモンのアブシジン酸の量が減少した。棒グラフ上辺の縦線は、標準偏差を示す

高温に遭遇した登熟途中の種子胚乳では、α-アミラーゼの活性が上昇し、作り出したデンプンを次々と分解してしまうため、デンプンの蓄積が不十分となり、乳白粒となることが予想された形だ(画像4・5)。

イネ主旨登熟における高温の影響(猛暑で乳白粒が発生するメカニズム)。画像4(左)は平温、画像5(右)が高温。通常は、主旨の中にデンプンが蓄積し、透明な健全粒となる。ところが、登熟期に猛暑に遭うと、歯の光合成で造られた糖からデンプンを合成する能力が低下すると共に、せっかく作ったデンプンを分解するα-アミラーゼの働きが強まる。このことが、胚乳におけるデンプンの蓄積を低下させ、乳白粒が発生する原因となっている

遺伝子の発現を抑えて、大部分のα-アミラーゼ遺伝子を登熟途中段階で働くことができなくすると、高温で発生する乳白粒を低減することに成功した(画像6・7)。

α-アミラーゼ低減組換えイネの玄米外観(画像6:左)および健全粒率(画像7:右)。α-アミラーゼを低減させたイネは、昼31℃/夜26℃の高温条件で登熟した時、対象のイネと比較して、乳白粒の発生が軽減され、白濁のない健全粒が多くなった。棒グラフ上辺の縦線は標準偏差を示す

今後は、既存の遺伝資源を探索したり、新規の遺伝子突然変異を誘発したりすることによって、α-アミラーゼ遺伝子が変異したイネを見出し、高温でも乳白粒を生じにくい、温暖化に強いイネ品種の開発が期待されると、研究グループは述べている。