トムソン・ロイターは9月19日、10月8日から予定されているノーベル賞受賞者の発表者に先駆け、同社の学術文献引用データベース「Web of Science」を元に、論文がどの程度引用され、学術界にインパクトを与えたのかなどを考慮した「ノーベル賞有力候補者(トムソン・ロイター引用栄誉章)」を発表した。
同賞は同社が1970年代から不定期に行ってきた文献の引用数の定量計測を元に、2002年以降、毎年定期的に発表してきたもので、今回、新たに有力候補として加えられた研究者は「医学・生理学」で3トピック7名 、「物理学」で3トピック6名、「化学」で3トピック4名、「経済学」で3トピック4名の合計21名。その内、日本からは医学・生理学分野で理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの竹市雅俊 センター長が、化学分野で東京理科大学の学長で東京大学の特別栄誉教授/神奈川科学技術アカデミー最高顧問でもある藤嶋昭氏、首都大学東京の名誉教授で同大大学院 都市環境科学研究科分子応用化学域 特任教授の春田正毅氏の3名が選出された。
同候補の選定基準は、過去20年以上にわたる学術論文の被引用件数に基づいて、各分野の上位0.1%にランクインする研究者となっており、主なノーベル賞分野における総被引用数とハイインパクト論文(各分野において最も引用されたトップ200論文)の数を調査し、ノーベル委員会が注目すると考えられるカテゴリ(物理学、化学、医学・生理学、経済学)に振り分け、各分野で注目すべき研究領域の候補者を決定するというもの。
候補者は毎年選出されるが、選出された研究者は候補者の1人として翌年以降も繰り越してリストアップされていく方式であり、2002年から2012年までの間に、今回選出された3名を含めると日本人だけでも16名が候補者に名を連ねることとなる(内2名は故人)。
今回の21名を加えた全世界の候補者は162名で、この内26名(2011年に9名が選出)が実際にノーベル賞を受賞しているが、同社ではこの162:26という比率に意味があるのではない、実際に化学分野の研究者だけでもデータベースには約70万人登録されており、候補者にリストアップされる可能性があるのはその内のトップ0.1%だが、それでも700名も居り、そこからノーベル賞の受賞トレンドや受賞者の地域性などを加味して搾っていっており、そうした周辺要因まで含め、ノーベル賞の選考委員とどの程度、思惑が近づけているのか、という点が問題になってくると説明している。
今回の21名が所属する研究機関の地域は、米国が13名、英国3名、カナダ2名、そして日本が3名と、昨年の候補がグローバルにわたっていたことに比べると(オーストラリア、フランス、オーストリア、ドイツ、サウジアラビアからも選出されていた)北米と英国、日本に固まる形となった(重複有り)。この偏りとして、同社では米国が強いのは例年通りだが、今年の偏りについては特に意識をしたわけではなく、論文の引用数などを調査した結果、たまたまこういう日本と英国、カナダに集中したとしている。
日本人として選出された竹市氏の対象論文は、「細胞接着分子カドヘリンの発見(for pioneering discoveries of cell adhesion molecules,Hynes and Ruoslahti for integrins and Takeichi for cadherins)」。藤嶋氏の論文は「本多・藤嶋効果(酸化チタンの光触媒反応)の発見(fot th discovery of photocatalytic properties of titanium dioxide(the Honda-Fujishima Effect)」、そして春田氏の論文は「金の触媒作用の独自な基盤的発見(for independent foundational,discoveries of catalysis by gold)」となっている。このうち、藤嶋氏の論文は、同氏が学生の頃に、当時の指導教官であった本多健一氏と共同で発表したもので、本来であれば本多氏も候補に挙がるべきものであるが、残念ながら2011年に死去されており、候補からは除かれたという。