ローム、アクアフェアリー、京都大学の3者は9月18日、スマートフォンなどの携帯用電源として活用可能な小型、軽量、高出力の水素燃料電池を開発したことを発表した。

燃料電池としては、メタノールや水素を用いた燃料電池の普及が進められているが、メタノール燃料電池は高出力化が難しく、また水素燃料電池については高出力化が可能なものの、ボンベを使用するために小型化や取扱いが難しいというデメリットがあった。

今回の研究では、ロームとアクアフェアリーが独自技術として水素化カルシウムをシート状に固形化する技術を開発し、体積3cc未満(38mm×38mm×2mm)の水酸化カルシウムのシートと水から約4.5lの水素を発生させ、5Whrの電力発生を達成した。燃料である水、カルシウム系燃料ともに安全な物質であり二酸化炭素や有害ガスの発生はないほか、廃棄時も一般廃棄物として廃棄が可能であるため、環境に対する負荷が少ないものとなっている。

水素燃料電池の原理

ローム研究開発本部 副本部長の神澤公氏。手に持っているのが今回開発された水素化カルシウムをシート状に固形化したもの。これを取り換えることで、手軽に充電することが可能となる

水素化カルシウムは水を入れると水素を発生させ、その化学式は以下の通りとなる。

CaH2+2H2O→2H2+Ca(OH)2

開発された燃料電池は固体高分子燃料電池で、触媒には白金を用いているが、アクアフェアリーの担当者は「白金のコストは、独自技術である燃料電池を樹脂を用いた射出成型技術などのコストの方が現状かかっていることから問題にならない」としている。また、同燃料電池は、アルミラミネート加工により大気中の水分を分離することで燃料の劣化を抑えることが可能で、エネルギーをロスすることなく20年以上の保存が可能だという。

製品としては、携帯機器向けの充電や緊急時の電源用途を想定した「Mobile Aqua」(5Whrの発電量。定格電圧は5.2VDC)、アウトドアやレジャー用途などで用いられる数百Wクラスの電源を目標とした「High power Aqua」(200Wの発電量。定格電圧12/24VDC)、そして山岳やへき地での地震や火山観測用途などを想定した「Long Life Aqua」の3製品を計画している(いずれも製品名は仮称)。

Mobile Aquaの概要。2種類の製品タイプが現在予定されている

High power Aquaの概要。将来的には燃料カートリッジをセパレート型にすることで、発電しつつ、燃料を追加ということにも対応したいとのことであった

今回発表された3種類のほか、15~50W程度のPC向け製品も企画されているという

このうち、Long Life Aquaは近計システムも参加する形で開発が進められており、鉛蓄電池の1/4の重量となる3kgで400Whrの発電量を実現可能であり、こちらは2013年4月に発売される予定だとするほか、3者では今後、同燃料電池の信頼性評価や改良を進め、2013年中の製品化を目指すとしており、Mobile Aquaの場合では、現在販売されているリチウムイオン電池に対抗できる程度の価格を目指すとしている。

High power Aquaのデモの様子。実際にはノートPCと42型の液晶テレビが稼働しており、一本のカートリッジで3時間くらいの稼働が可能とのことであった

Mobile Aquaを実際にスマートフォン(iPhone)につなげ充電している様子

Mobile Aquaには2タイプの製品が用意。USBコネクタが1つあり、そこにケーブルをつなぐパターンと、ドッキングコネクタにじかに接続するパターンがある

Mobile Aquaのカートリッジ。2品種で共通形状ではなく、別々の形状をしている。ここに水素化カルシウムの固形シートが組み込まれており、カートリッジを差し込むと、その圧力で水素が発生、その反応により電力が発生する