東京大学、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、理化学研究所(理研)、産業技術総合研究所(産総研)の4者は9月11日、乾燥ストレス条件下でイネの生長を制御する仕組みを分子レベルで明らかにしたと発表した。

国際農林水産業研究センター 生物資源・利用領域の戸高大輔特別研究員(当時・東大大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻特別研究員)、同・中島一雄主任研究員、同・圓山恭之進主任研究員、理研 植物科学研究センター 生産機能研究グループの榊原均グループディレクター、同・篠崎一雄植物科学研究センター長、東大大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻の城所聡助教、同・刑部祐里子講師(当時)、同・篠崎和子教授らの共同研究グループによるもの。

研究の詳細な内容は、9月10日付けで「米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)」に掲載された。

現在、地球レベルで環境の悪化が問題となっており、干ばつなどの環境ストレスに強い作物の開発が重要となっている。篠崎教授らの研究グループは乾燥ストレス下でも、生長や収穫が期待できる乾燥ストレス耐性作物の開発を目指して研究を行ってきた。

植物は干ばつなどのストレス条件下では生育が抑制され、収量が減少してしまう。しかし、このストレスによる生育の抑制に関する分子レベルの機構はほとんど不明のままだったのである。

そこで研究グループは、ストレス時に生育を制御する因子に着目し研究を進めた。イネを用いて、「OsPIL1」と名付けられた遺伝子が乾燥ストレス条件下で植物の生育を制御していることを明らかにした形だ。

イネのOsPIL1遺伝子は、多くの遺伝子の働きをコントロールするマスタースイッチとして働く「転写因子」をコードしており、植物が光合成を行って成長する日中に働きを示すことが見出されていたものだ。しかし、乾燥などのストレス状態になると、日中でも働きが抑えられてしまうことが明らかにされたのである(画像1)。

この遺伝子をイネ中で過剰発現して、強く働くように改変するとイネの生長は大きく促進され、大人の背丈にまでに達してしまった(画像2)。そこでマイクロアレイ解析法を用いて、OsPIL1がコントロールしている遺伝子が調べられた結果、細胞壁を合成し、細胞の伸長を行っている遺伝子群が数多く見出された次第だ。

画像1。乾燥ストレス条件でイネの伸長が抑制される仕組み。乾燥ストレスがない条件では、OsPIL1が発現し、イネの伸長が促進される。一方、乾燥ストレス条件下では、OsPIL1の発現が抑制され、イネの伸長が抑制されてしまう

画像2。乾燥ストレスのない生育条件下でのOsPIL1の効果。乾燥ストレスのない生育条件下では、通常のイネ(右)に比べ、OsPIL1の働きを強化したイネ(左)では草丈が高くなる

これらの結果より、乾燥ストレスを受けた植物は、OsPIL1遺伝子の働きを抑えることで細胞壁の合成を抑制し、その結果生長が抑えられていることが明らかになったのである。

今後OsPIL1遺伝子を利用することによって、ストレス条件下においても生育が抑制されない作物を開発できる可能性が考えられると研究グループはコメント。

これまでに、乾燥ストレス耐性遺伝子を用いたストレス耐性作物の開発に関しては多くの報告があったが、生育の低下や収量の減少が問題になっていた。OsPIL1遺伝子を乾燥ストレス耐性遺伝子と併用することによって、干ばつなどのストレス下でも生長や収量が低下しない耐性作物の開発が期待されるという。

また、OsPIL1遺伝子の働きを強めることで、植物のバイオマスを増産する技術の開発が期待されると、研究グループは述べている。