広島大学は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所の協力を得て、室内での岩石透水実験と数値計算の結果を基に、プレート境界で発生する「ゆっくり地震」の原因は地下での浸透率(透水性)の違いにあるとの新たな説を証明したと発表した。

成果は、広島大大学院 理学研究科の片山郁夫准教授ら研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間9月3日付けで英国学術誌「Nature Geoscience」オンライン版で先行掲載された。

海のプレートが陸のプレートの下に滑り込むプレート境界では「海溝型地震」が発生するが、これらの震源よりやや深い領域では、ゆっくり地震という通常の地震よりもゆっくりとすべる(ゆっくりとした周期を持つ)地震が報告されている(画像1)。

ゆっくり地震は、「深部低周波微動」や「スロースリップ」を含み、断層が数時間から時には数カ月かけて動く現象だ。ゆっくり地震は、巨大地震の想定発生領域を縁取るように分布することから、海溝型地震の準備段階における現象とも考えられている。

現在のところ、ゆっくり地震はプレート境界に存在する水により誘発されると考えられているが、同地震の発生領域に水がどのようにして溜まるかは不明なままだった。

画像1。西南日本におけるゆっくり地震の分布(小原2007)。灰色の線は、南海・東南海地震の想定震源領域を表す

片山准教授は、深さ約30kmの地殻とマントルの境界である「モホ面」付近でゆっくり地震が発生することに注目。モホ面では岩石種が変化することで浸透率が異なることで水を溜める仕組みになっているとの仮説を立て、室内実験と数値計算を組み合わせて実証することにしたのである。

地球内部では、岩石のすき間を経路にして水が移動している。岩石中での水の流れ易さは浸透率で表されるため、片山准教授らはプレート境界に存在する岩石の浸透率を実験室で系統的に測定した。

その結果、モホ面を境に深部(マントル)に存在する「蛇紋岩」は水を比較的通し易い(浸透率が高い)のに対し、浅部(地殻)に存在するはんれい岩は水を通しにくい性質を持つことが判明したのである(画像2・3)。

このことから、プレート境界を上方に移動してきた水は、モホ面で難透水層であるはんれい岩にぶつかり水の移動が妨げられると考えられる(画像4)。

岩石透水実験と数値モデリングの結果。画像2(左):モホ面より浅部に存在するはんれい岩は、蛇紋岩より2桁ほど浸透率が低いため、難透水層として働く。画像3:数値計算の結果、モホ面近傍で間隙水圧が上昇し、微小地震を引き起こし易い環境にある

ゆっくり地震の発生領域とプレート境界での水循環に関する模式図。画像4(左):ゆっくり地震は通常の海溝型地震より深部で発生し、モホ面近傍に集中する。画像5:海洋プレートから放出される水はプレート境界上を浮力のため上方へ移動するが、モホ面では難透水層であるはんれい岩により水がせき止められ、間隙水圧が上昇する

地下浅部でも同様の構造が見られ、油田では「難透水層」の下に流体(石油)が埋蔵されているという具合だ。水がプレート境界に溜まると間隙水圧が上昇するため、微小地震を誘発することにつながる。

今回の実験結果を基に、数値モデリングによって間隙水圧の変化を計算したところ、間隙水圧がモホ面近傍で局所的に上昇しゆっくり地震を引き起こし易い環境にあることがわかった(画像3)。

今回の研究成果は、ゆっくり地震が発生する領域に水が溜まる仕組みを明らかにしたことになるが、巨大地震を含む通常の海溝型地震でも、水の存在と地震発生が密接に関わっていると考えられている。このことから、プレート境界での水の動きをとらえることが、地震発生の予測につながると期待されるという。

今後は、地震波速度構造探査などにより、プレート境界での水の分布を詳しく調べ、水の観点からどのような領域で地震が起きやすいかを評価することが求められると、。片山准教授らは述べている。