大阪大学(阪大)は8月6日、ニューヨーク大学など8つの大学・研究機関との共同研究により、アジアのサルに感染するサルマラリア原虫の1種である「サイノモルジー原虫」の全ゲノムを解読し、ヒトに感染する三日熱マラリア原虫など近縁3種のゲノム比較で3種の違いと特徴を把握したことを発表した。

成果は、阪大 微生物病研究所 分子原虫学分野の田邉和裄招聘 教授、ニューヨーク大のJane Carlton教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間8月5日付けで英国科学誌「Nature Genetics」オンライン版に掲載された。

マラリアは、その病原体であるマラリア原虫が蚊によって媒介され、赤血球で増殖することによって引き起こされる感染症で、毎年世界で2億人以上が罹っている状況だ。

その病原体の1種である「三日熱マラリア原虫」はアフリカ以外の熱帯・温帯地域に最も多く分布する。この原虫は肝臓で休眠し、数年後に再発を起こすことが知られているほか、近年では薬剤耐性が現れるようになってきたことから、その対策が重要となっていた。

しかし、この原虫の実験室での培養は困難で、そのため研究が遅れていた。三日熱マラリア原虫は、アカゲザルなどアジアに分布するサルに寄生するマラリア原虫と系統的に近く、数10万年前にサルからヒトへ宿主を換え、サルへ感染する能力を失ったと考えられている。

サイノモルジーマラリア原虫は三日熱マラリア原虫に最も近縁で、肝臓休眠を持つ点など、三日熱マラリア原虫と共通する特徴を持つ。研究グループは、サイノモルジー原虫のゲノムを解読できれば、すでにゲノムが解読されている三日熱マラリア原虫およびほかのサルマラリア原虫(ノーザイマラリア原虫)を加えた3種間のゲノム比較から、三日熱マラリア原虫のゲノムの特徴が明らかにできると考え、サイノモルジー原虫のゲノム解読に取り組んだ。

約5年間にわたるゲノム解読と比較ゲノム解析の結果、3種のマラリア原虫の間では約5000個ある遺伝子の9割が共通していることが判明。残りの共通していない1割には、遺伝子重複によって遺伝子コピー数を増やした「多重遺伝子ファミリー」が含まれることが明らかになった。つまり、3種間のゲノムの違いは、主に多重遺伝子ファミリーにあることがわかったのである。

重要なことに、マラリア原虫の赤血球侵入に関わるタンパク質として、「DBP(Duffy binding protein:ヒト赤血球のダフィー抗原に結合するタンパク質),RBP(reticulocyte binding protein:網状(未熟)赤血球結合タンパク質)/NBP(normocyte binding protein:成熟赤血球結合タンパク質)」の多重遺伝子ファミリーにおいて遺伝子コピー数が種ごとに変化し、この変化が寄生できる動物の幅を決めている可能性が出てきた。

三日熱マラリア原虫は熱帯域のみならず温帯域にも分布し、かつては日本にも広まっていた。今回のサルマラリア原虫のゲノム解読は、三日熱マラリア原虫の感染メカニズムの解明を進め、同時に新たなマラリアの予防・治療法の開発に貢献すると、研究グループはコメントしている。

三日熱マラリア原虫と近縁サルマラリア原虫のゲノム比較。1割が異なり、これが各原虫の種を特徴付けている