横浜市立大学は7月4日、大阪大学歯学部、順天堂大学医学部との共同研究により、肥満による肝臓の病気である「脂肪肝」から「脂肪肝炎(非アルコール性脂肪肝炎)」の発症原因として、通常健常人では肝炎を起こさないごく微量の腸内細菌毒素に過敏に反応して慢性肝炎を発症することを発見し、その原因が肥満により脂肪組織から多量に分泌されるホルモンである「レプチン」によるものという、これまでに知られていなかった新しい病気のメカニズムを解明したと発表した。

成果は、横浜市大の中島淳教授、同今城健人医師らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国時間7月3日発刊の米科学専門誌「Cell Metabolism」に掲載されると同時に、表紙にも今回の研究成果が採用された。

これまでお酒を多量に嗜むことがない方の脂肪肝である「非アルコール性の脂肪肝疾患(Non Alcoholic Fatty Liver Disease:NAFLD)」は病的意義がなく、放置しても問題ないと考えられていたが、近年このような脂肪肝から慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんになることが明らかにされ、欧米を中心とした肥満大国で当該疾患が医療現場で問題となっている。

しかし、この「非アルコール性脂肪肝炎(Non Alcoholic Steatohepatitis:NASH)」は原因不明の病気だ。簡便な診断方法もなく、また確実な治療法がないのが現状であり、自覚症状のないまま肝臓がんが発生して初めてわかることもあり、今後の患者の急増に対してその医療上の対策は急務だという(画像1)。

画像1。非アルコール性脂肪肝疾患の病気の自然経過

日本にはNAFLDは推定1000万人以上いるとされ、その内約2割がNASHとして慢性肝炎になると考えられている。この脂肪肝から脂肪肝炎になるメカニズムは、ウイルスでもなくアルコールでもないことから、肥満・過食・運動不足などに加え、未解明のメカニズムによるものと考えられているところだ。

そうした中で、近年になり、肥満により腸内細菌が肝臓に侵入した結果、細菌毒素に暴露された肝臓が炎症を起こすことで、脂肪肝炎が慢性肝炎になると考えられるようになってきた。

研究グループがNASH患者を診たところ、自覚症状もなく、腸に異常もないのに肝臓に腸内細菌が肝炎を起こすほど多量に侵入するとは到底考えにくいと考えられたことから、逆に肥満による脂肪肝においては腸から侵入してくるごくごく微量の細菌に対して過剰反応をするのではないかと仮説を立てて、動物モデルで検討をするに至ったのである。

健康な肝臓では、腸内から侵入してくるごくわずかの細菌毒素に関しては、無反応で炎症を起こすことはない。しかし、肥満状態では脂肪組織からホルモンの1種であるレプチンが多量に分泌され、転写因子の1種である「STAT3」の活性化を介して、肝臓のマクロファージである「クッパー細胞」上に細菌内毒素の共受容体「CD14」の発現を亢進させる。

この結果、肥満状態では通常は炎症を起こさないごくわずかな細菌毒素に対してもCD14により過剰反応をきたし、Kupffer細胞は活性化して「炎症性サイトカイン」を産生し肝炎を発症することが確認されたというわけだ。

研究グループは、普通食で飼育したマウスに、「グラム陰性桿菌」由来の「内毒素(LPS)」を肝炎が起こらないようなごく少量だけ注射した群と、高脂肪食負荷で肥満、脂肪肝にしたマウスに同じ量のLPSを投与した群で比較検討を実施した。

すると、普通食群マウスでは肝障害も起こらず、長期のLPS投与でも肝臓の線維化も起こらなかったが、肥満マウスでは肝障害が起き、長期投与で肝臓の著明な線維化が形成されたのである。

同じ検討をレプチン欠損した肥満マウス「ob/ob」で行ったところ、著明な肥満、脂肪肝があるのにも関わらず、LPS投与で肝障害も起こらず、長期投与での線維化も起こらないことが確かめられた。

高脂肪投与した肥満マウスの脂肪肝では、遺伝子発現の網羅的解析より、普通食マウスに比べて肝臓のクッパー細胞上でのCD14の発現が有意に増加していることも判明。

また、CD14の「siRNA(small interfering RNA)」を用いて、高脂肪負荷肥満マウスの肝臓でCD14の発現を低下させたところ、LPSへの応答性が低下して肝障害が起きなくなることも確認された。

その一方で、脂肪肝がない普通食負荷マウスに外因性にレプチンを注射すると肝臓でのCD14の発現が増加してLPS投与で肝障害が起こるようになったのである。同時に、この機序は「レプチン受容体(ObR)」を介してSTAT3を活性化する経路を介していることをSTAT3阻害剤を用いた実験にて証明された。

以上の研究結果より、高脂肪食などによる肥満では肝臓のクッパー細胞上のCD14が過剰発現して、その結果、通常では反応しないようなごく微量の細菌毒素(Low-dose LPS)に反応してサイトカインを産生して肝炎が生じること、さらには肝硬変に至ることが示唆されたのである。また、このCD14の発現増加は肥満による高レプチン血症によりレプチン受容体及びSTAT3を介した結果であることが示唆された(画像2・3)。

画像2。今回の発見の概略を模したイラスト

画像3。今回の発見の機序をまとめたイラスト

腸内細菌由来の内毒素「エンドトキシン」が肝炎を起こすことは指摘されていたが、今回の研究成果は肝臓そのものが細菌毒素に過剰反応するようになっていることを示したもので、これまで類似の報告はなく、まったく新しい機序解明である。

今後、そのメカニズムを応用した非アルコール性脂肪肝炎の診断方法の開発や、新規治療法の開発につながることが期待されるという。日本のみならず先進各国で膨大な患者数がおり、日本では推定1500万人もの患者がいる。

今後ますます患者数が増加していくことが予想されることから、非アルコール性脂肪肝炎から肝硬変・肝臓がんへの病気の進行を予防する新しい治療法を開発することは、医療上の意義として計り知れないと、研究グループはコメントしている。