東京大学(東大)は6月25日、新たに考案した検出器を用いて、電子顕微鏡で原子レベルの電場を観察することに成功したと発表した。
成果は、JST 課題達成型基礎研究の一環として、同大 大学院工学系研究科 総合研究機構の柴田直哉 准教授、幾原雄一 教授らによるもの。英国科学誌「Nature Physics」のオンライン速報版で公開された。
電子顕微鏡は、光(可視光線)よりはるかに波長が短い電子を用いて、光学顕微鏡では見ることのできない微細な対象を(電子像として)拡大し観測する装置であり、このうち、走査透過型電子顕微鏡(図1)は、薄い試料上で電子を走査しながら透過した電子を検出して像として拡大観測できる。
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図1 走査透過型電子顕微鏡(STEM)の実機写真(左)とSTEMの模式図。照射源(赤点)から照射された電子(緑色)は、収差補正装置(灰色円盤)を通過すると非常に細く絞り込まれる。試料(藍色四角)を透過する際、原子の種類に応じて散乱するので、これを環状の検出器(青色ドーナツ環)を用いて計測し、像として観察する。 |
この電子顕微鏡の開発において、日本は高い技術力を有し、「電顕日本」として輸出の花形産業を形成する時期があった。しかし、1990年後半、ドイツが収差補正技術により分解能を向上させてからは、同国や米国に研究開発のイニシアティブを奪われている。近年、国内研究機関によるプロジェクトによりようやく高性能電子顕微鏡の開発水準は世界のトップに追いついたが、高分解能技術をさらに向上させるとともに、ナノテクノロジーやデバイス開発などにおいて、構造とは異なる物質の性質を同時に得るような新たな観察機能・技術が必要とされていた。
今回、柴田准教授らは最先端の収差補正走査透過型電子顕微鏡の検出器を4つに分割することで、試料原子周辺の電場によって影響をうけた電子線の進行方向の変化(角度や位置)を分かるようにした(図2)。
この手法により、チタン酸バリウムの電場強度を観察し、単位構造中に形成された電気双極子の検出およびドメイン内部の電場を可視化することに成功した(図3)。
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図3 電子線のシフトの計測。(a)原子が無い場合の電子線の検出(左)に比べ、原子の場があると、電子線の入射位置に応じて電子線がX検出面側(右)やY検出面側(中)へシフトする。(b)原子位置を基準に、X検出面(上)とY検出面(中)の強度差(X-Y)が逆対称の形に計測される(下)。この逆対称の強度プロファイルは原子の周囲で電場の方向が逆転することを示している |
また、理論計算手法を用いて、同材料の単位構造内にある電気双極子の検出が可能なことを理論的に検証した(図4)。
近年、太陽電池、蓄電池、パワーデバイスなどのエネルギー材料の研究開発において、材料の表面を原子スケールから積極的に制御し、特性の向上を目指す研究開発が精力的に行われている。中でも、界面における局所電磁場を原子スケールから制御し、特異な界面機能を発揮させエネルギー利用効率などを向上させる手法として期待されているが、今回の成果により、的確な界面制御が実行可能か直接評価できるようになる。また、機能性相界面の特性発現に係る本質的なメカニズムの解明が実現でき、新たなエネルギー材料創出やデバイス開発に資する原子スケールからの相界面制御指針の構築に繋がるとコメントしている。