シャープと半導体エネルギー研究所は6月1日、酸化物半導体の新技術「CAAC(C-Axis Aligned Crystal)」を共同開発したと発表した。これにより、中小型FPDの高精細化、低消費電力化、タッチパネルの高性能化といった市場ニーズに応えていくという。

中小型液晶市場は年率17%で成長しており、今後もこの傾向は続く見込み。ただし、成長するのはHD以上の高精細分野に限られており、「精細度の高さがディスプレイの価値を決める」(シャープ 副社長執行役員 技術担当 兼 オンリーワン商品・デザイン本部長の水嶋繁光氏)と見ている。一方、モバイル機器の消費電力のうち75%をディスプレイが占めているため、現在の製品より1/2~1/3の低消費電力化が求められている。さらに、タッチパネル搭載製品の比率も伸びていくと見られており、さらなる性能向上への要求も高まっているという。

携帯電話用パネル 画素フォーマット推移

低消費電力への要望

このような課題に対し、IGZOは、

  1. 移動度が高い
  2. オフ性能が高い
  3. 生産性が高いといった特徴を持ち

TFTに適用するとこれらを解決できるとして注目されている。

IGZOの3大特徴

電子移動度は、TVやモニタ向けに採用されているa-Siの20~50倍ある。これにより、TFTの小型化と配線の細線化が可能。IGZO液晶では同等の透過率で2倍の高精細化を実現している。また、高いオフ性能により、低消費電力化も実現した。従来の液晶駆動方式では、60フレーム/sで書き換えている。これに対し、新開発の休止駆動を用いると、静止画を表示時など絵を書き換える必要がない場合は、休止期間を設けることができ、消費電力を従来の1/5~1/10まで削減できる。この休止期間をa-Siで設けると、フリッカが発生してしまうが、IGZOならフリッカなしで実現できる。このオフ性能の高さは、タッチパネルの高性能化にも繋がる。従来のタッチパネルは常時ノイズが発生しており、これがタッチ検出に悪影響を及ぼしていた。休止駆動を用いると、SN比が5倍向上し検出性能も上がる。生産性については、a-Siと同等のシンプルなプロセスで大型ラインでの製造にも対応する。

IGZOの優位性 高精細化

IGZOの優位性 低消費電力化

IGZOの優位性 タッチパネルの高性能化

今回の「CAAC」技術は、結晶性IGZO薄膜において全く新しい結晶となる。薄膜のIGZOは、通常アモルファス構造を持つ。単結晶のIGZOは、C軸方向から見ると六角形構造、C軸に垂直な方向から見ると層状構造という特徴がある。今回の「CAAC」は平面TEM像で確認すると六角形構造、断面TEM像より層状構造が見出され、結晶構造を持っていることが確認された。つまり、薄膜でありながら、単結晶に近い構造を有しているという訳だ。プロセスの詳細をC軸上に成長させる工夫としては、「成膜した後にアニールし結晶化させる。この結晶化する過程をスパコンで計算すると、最初にZnの六方晶が面で成長し、次にGa層、In層と上から下に成長していく。この原理が量産化に使えることになった。しかも、投資の負荷が小さいプロセスとなっている」(半導体エネルギー研究所 代表取締役 山﨑舜平氏)としている。

従来のIGZOと「CAAC-IGZO」の平面TEM画像の比較

従来のIGZOと「CAAC-IGZO」の断面TEM画像の比較

断面TEM画像からIGZO結晶のc軸は膜表面に垂直なことがわかった

これまで、a-IGZOはTFTではゲートBTに対する変動、特に光照射時のBTが問題になっていた。今回の「CAAC-IGZO」は光照射BTによる影響を低く抑え、信頼性を改善している。これにより、薄膜トランジスタの小型化や高性能化が実現でき、高精細化が進むスマートフォンやモバイル機器向け液晶ディスプレイへの採用が期待できるという。シャープでは、今年度中に亀山第二工場(三重県)の第8世代(ガラス基板サイズ、2160mm×2460mm)ラインに「CAAC-IGZO」技術を採用していく計画。会場には「CAAC-IGZO」を用いたディスプレイが数多く展示された。

「CAAC-IGZO」による液晶 6.1型2560×1600画素(498ppi)

「CAAC-IGZO」による液晶 高性能タッチパネル付き11型FWXGA

「CAAC-IGZO」による液晶 32型3840×2160画素(QFHD、140ppi)

また今回、有機EL(OLED)を展示。これまで液晶が有利という姿勢を貫き通してきたシャープが展示したとあって、会場では大きな注目を集めた。

「CAAC-IGZO」によるOLED 白色OLED+カラーフィルタ(CF)構造の13.5型3840×2160画素(QFHD、326ppi)

「CAAC-IGZO」によるOLED フレキシブルタイプの3.4型540×960画素(QHD、326ppi)

液晶とOLEDの展示について、シャープ 副社長の水嶋繁光氏は、「今回、液晶とOLEDを展示したのは、どちらも対応できるという意味で行った。モバイルディスプレイのバリエーションの1つとして技術を持っていることは必要と考えている。しかし、OLEDの量産化にはまだ課題がある。中小型FPDが、全てOLEDに変わるのかというと、そのようなことはない。高精細化や低消費電力化、価格などを踏まえると液晶が優位とみている」との見解を示した。