京都大学(京大)の研究グループは、寄生者を介した渓流魚への陸生昆虫の供給が、渓流魚による水生昆虫類の摂餌量を低下させ、その影響が藻類やさらには河川の生態系機能(有機物の破砕速度)にまで波及することを大規模な野外実験によって実証したと発表した。同成果は、同大の佐藤拓哉 白眉センター特定助教、徳地直子 フィールド科学教育研究センター准教授および渡辺勝敏 理学研究科准教授らによるもので、生態学の国際誌「Ecology Letters」に発表された。
研究グループではこれまでに、ハリガネムシ(類線形虫類)という寄生虫が、宿主であるカマドウマ・キリギリス類(陸生昆虫類)の行動を操作して河川に飛び込ませることで、渓流魚に大きな餌資源(河川に飛び込んだ宿主)をもたらすという現象を発見し、そのような宿主が、渓流魚の年間摂餌量の6割を占めることを明らかにし、森林で育まれる陸生昆虫類が、森と川の生態系をつなぐ重要な役割を果たしていることを示していた。
今回の研究では、同大フィールド科学教育研究センター和歌山研究林内の小河川において、河川に飛び込むカマドウマ類の量を人為的に操作する大規模な野外操作実験を行った。その結果、カマドウマの飛び込み量を抑制した処理区間では、アマゴ(サケ科魚類)による水生昆虫類の捕食量が増大し、水生昆虫類の生息量が大きく減少したことが確認された。
また、カマドウマの飛び込み量を抑制した処理区間では、藻類を摂食する水生昆虫類が減少したために、藻類の現存量が増大したことが確認された。
さらに、カマドウマの飛び込み量を抑制した処理区間では、落葉を破砕して摂食する水生昆虫類が減少したために、河川内の落葉破砕速度が減少傾向にあることが確認され、これらの結果から、ハリガネムシ類によるカマドウマ類の河川への誘導は、その時期における河川の生態系プロセスを改変することが実証されたという。
寄生者がつなぐ森林-河川生態系・ハリガネムシ類が引き起こす森から川へのエネルギー流は、渓谷魚の年間総エネルギー消費量の60%を占める場合もある。今回の研究では、このような寄生者によるエネルギー流を人為的に抑制すると、渓谷魚による水生昆虫類への捕食圧が増大し、その影響が河川生態系全体に波及することが実証された |
寄生者は自然界に普遍的に存在し、地球上の全生物種の半数以上を占めるとも言われているが、それらが生態系において果たす役割を実証した例はこれまでほとんどなかった。今回の研究は、これまで見過ごされていたそうした寄生者が、森と川という異質な生態系の連環を支える主要な役割を果たしていることを示す研究だと研究グループでは述べている。
なお研究グループでは、複雑な生活史を持つ寄生者は、生態系の撹乱に対して脆弱かも知れず、この点で、ハリガネムシ類は、森と川のつながりを維持する健全な森林管理の在り方を指標する重要な生物種ともいえるかもしれないともコメントしている。