国立天文台は、チリ・アタカマ砂漠(チャナントール高原)に建設中のアルマ(ALMA)望遠鏡の山頂施設に、北米製の直径12mのアンテナ1台が5月12日に運び込まれ、設置されたアンテナの数が半数の33台に達したことを発表した。
アルマ望遠鏡、正式名称「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して、標高5000mのチリ・アタカマ砂漠に建設中の国際天文施設だ。
最終的には、パラボラアンテナ66台を組み合わせた干渉計方式の巨大電波望遠鏡となる。その内訳は、直径12メートルのアンテナを50台組み合わせるアンテナ群と、直径12メートルのアンテナ4台と直径7メートルアンテナ12台からなる「アタカマコンパクトアレイ(ACA)」で構成される予定だ。なお、まだ完成はしていないが、すでに初期科学観測はスタートしている。
最初のアンテナが山頂施設に設置されたのは、2009年9月のことだった。これ以降アンテナの設置は順調に進んでおり、今回その折り返し地点に到達し、アンテナ設置のペースも上がってきている。
最先端の技術がつぎ込まれたアルマ望遠鏡のアンテナは1台でおよそ100トンの重量があり、標高2900mの山麓施設と標高5000mの山頂施設の間の運搬は、特別なトランスポーター(運搬台車)に載せて行う。「Otto(オットー)」と「Lore(ロア)」と名付けられた2台のトランスポータは長さ20m、幅10m、高さ6mという威容を誇り、28個のタイヤを備えている。
またこのトランスポータは、山頂施設や山麓施設中でアンテナの配置を変える際にも使われる。66台のアンテナはもっともコンパクトな配列では半径150mの範囲内に設置されるが、もっとも広い配列の場合は差し渡し18.5kmの範囲に設置される形だ(これにより、直径18kmの超巨大電波望遠鏡に相当する空間分解能を有することができる)。
アンテナの配置を変更することで、アルマ望遠鏡はあたかもズームレンズのように解像度(視力)を変化させることが可能となっている。アンテナ間隔を広く取るほど、解像度の高い観測が可能だ。
アルマ望遠鏡は、宇宙にただよう低温のガスや塵を観測できる最も強力な望遠鏡で、前述したようにすでに設置済みの内の16台のアンテナ群を使った初期科学観測はすでに昨年から開始されている。アルマ望遠鏡を使った星、惑星系、銀河、そして生命の起源に挑む研究が、世界中の研究者によって今まさに進められているというわけだ。
画像1及び2は、山頂施設に設置された33台のアンテナ群。アンテナの多くは「セントラルアレイ」と呼ばれる山頂施設中央部に密集して設置されているが、1台(写真右奥)はほかのアンテナから1966m離れた地点に設置されている。この1台とほかのアンテナを使って、広いアンテナ間隔での干渉計試験が4月28日に実施され、干渉計試験に成功している。
ちなみに、この試験では日本製アンテナ2台を用いており(画像3)、アンテナ間の距離は過去最長。観測天体はいて座VX星、SiO(一酸化ケイ素)分子が放射するメーザー輝線を検出した。下の画像は今回の干渉計試験で取得されたもので、左の画像4がスペクトルで、画像5が位相だ。これらの図から、2台のアンテナが干渉計として正常に動作していることがわかっている。