東北大学(東北大)加齢医学研究所 脳機能開発研究分野の関口敦氏らの研究グループは、外傷後ストレス障害(PTSD)と様々な脳部位の萎縮の関連性を解明したことを発表した。同成果の詳細はNature出版による分子精神医学誌「Molecular Psychiatry」に掲載された。
これまでの脳研究において、PTSDで生じる脳形態の変化として様々な脳部位の萎縮が指摘されていたが、これらの基礎研究をPTSDの予防・早期発見に活用するためには、脳萎縮がPTSD症状の原因なのか結果なのかの解明が必要となっていた。しかし、過去の研究ではストレス暴露後の脳画像評価が主であり、ストレス暴露前後の縦断研究による解明が求められていた。
今回研究チームでは、東日本大震災以前に東北大学加齢医学研究所でMRI装置を用いた脳画像計測を行っており、仙台周辺に在住して軽度の被災をしていると思われる東北大の学生を再募集し、脳画像の再計測を実施、震災前後の脳画像と震災後3~4カ月時点でのPTSD症状の評価を行った。
脳形態画像解析の結果、右前帯状皮質においてPTSD症状と震災前の脳灰白質量が有意な負相関を、左眼窩前頭皮質においてPTSD症状と震災前後の脳灰白質変化量と有意な負相関が示された。また、これら脳領域が震災後PTSD症状の48%を説明することが明らかにされた。
この結果から、震災前から前帯状皮質の脳体積が減少している被災者にPTSD症状を生じやすく、PTSD症状出現に伴い眼窩前頭皮質の脳体積が減少することが明らかとなった。
前帯状皮質の機能として、恐怖や不安の処理に関与することが知られており、恐怖や不安の処理の機能不全がPTSD症状の誘因として関与することが示唆された。また、眼窩前頭皮質は条件づけ恐怖記憶の消去に関与していることから、恐怖記憶の処理の機能不全が震災後早期のPTSD症状の出現の背景にあることも示唆された。
なお、研究チームでは、これら成果は、大規模災害直後の心的外傷体験への生理反応に対する理解を深め、PTSD症状の早期発見・予防に資する基礎研究として意義深いものであるとコメントしている。