東芝は5月17日、都内で経営方針説明会を開き、2012年度以降の注力事業などの方向性を提示し、事業構造の転換と構造改革を進め、2011年度の売上高6兆1003億円の売り上げと2066億円の営業利益から、2014年度にはそれぞれ7兆8000億円、4500億円まで引き上げる目標を示した。

東芝 代表取締役社長の佐々木則夫氏

同社の代表取締役社長である佐々木則夫氏は東芝の経営方針について、「就任以来変化していない。事業構造改革などを強固に進めていく」とし、これまで行ってきた事業の集中と選択によるBtoBへのポートフォリオの振り替えによる収益体質の強化をさらに推し進めていくことを強調した。

同社の今後のビジネスの1つの軸となるのが「スマートコミュニティ」で、これがインフラの高効率・安定した電力確保の側面から進める「トータル・エネルギー・イノベーション」と、ネットワークの高速化、爆発的に増えるトラフィック処理への対応を図り、ビッグデータやセキュリティなどの側面から進める「トータル・ストレージイノベーション」の2つに分けられる。

エネルギーとストレージ、2つのイノベーションをICTと組み合わせることで、スマートコミュニティの推進を図ろうというのが同社の狙い

電力の最適活用を目指すエネルギーイノベーション

エネルギーイノベーションとしては、「火力発電」、「原子力発電」のほか、各種の再生可能エネルギーなどのインフラビジネス、各電気機器や電気自動車などの低消費電力化などを図るパワーエレクトロニクス、HEMS/BEMSといったホームソリューションなどがある。

電力インフラビジネスとしては、東日本大震災の影響もあってか火力発電プラントが国内外問わずに受注が好調、2011年4月以降だけで新規に20基(合計12GW)を受注しており、2015年度では3500億円の売り上げを目標とする。また、原子力発電(原発)も国内は福島第一発電所の安定化が最重要課題となっているが、海外では米国で34年ぶりに4基(AP1000)の建設が開始したほか、中国でも4基(AP1000)の建設が順調に進んでいるとのことで、2017年度には売上高1兆円を目標とするとした。さらに、再生可能エネルギー関連では、地熱が2011年度7基受注しているほか、海流発電システムの開発にも着手、水力も明電舎と提携し中小型向けの強化を図るなど、積極的に多角的な展開を進めており、2015年度で3500億円の売り上げを目標としている。

東芝の各発電事業の現在の状況

このほか、パワーエレクトロニクス関連では、SiCインバータを2012年12月より発売するほか、2次電池であるSCiBが三菱自動車工業のEVや2012年夏に発売予定となっている本田技研工業の「フィットEV」に採用されるなど、事業化が進んでいるものが多数あることから、2015年度では8000億円の売り上げを見込む。ホームソリューションとしても世界各国のスマートグリッド実証実験などに参加しており、今後、それらの成果がフィードバックされることから2015年度で2500億円を見込むとした。

ビッグデータの活用に向けたストレージソリューション

一方のストレージソリューションとしては、ビッグデータに対応するアプリシステムの提供を目指した「HDD/SSD」、「NAND」などの記録アプリケーションのほか、それらを活用した「ヘルスケア」、「リテール」、「デジタルプロダクツ」などのソリューションがある。

HDD/SSD事業としては、Western Digital(WD)から、3.5型のデスクトップ、コンシューマ向け設備および知財を獲得しており、「2015年度にはHDD3強の時代を実現する」(同)と強気の姿勢を見せる。また、NAND型フラッシュメモリとの開発一体化の加速を進めており、2012年9月にはHybrid HDDを出荷する計画とするほか、NANDそのものについてもSLCなどの高付加価値品へのシフトと、19nmプロセスからさらなる微細化に向けた研究開発の進展(1Ynm世代)、次世代メモリとしての3次元NANDメモリの2013年度の試作品提供、MRAMなどの開発を進めて行き、HDD/SSDでは2015年度で8500億円、NAND単体で同7000億円の売り上げをそれぞれ目指す。

NANDでの強みに加え、WDより3.5型HDDの設備と資産を獲得したことで、2015年度にはHDDベンダ3強時代へと成長することを目指す。また、NANDではプロセス微細化の限界を見据え、次世代技術の開発などの進展も加速させていくとする

ヘルスケア分野は、「新興国でも先進国でも需要が高い」と言いつつも医療費の問題などもあるため、「Healthcare@Cloud」によるCTスキャンなどで得た画像の外部保管などを絡めた地域医療ネットや在宅介護との連携強化や、患者の身体的負担軽減に向けた各種医療機器での検査時間短縮技術や放射線量の低減、重粒子線治療などの新規がん治療システムを推し進めていくことで2015年度で1兆円の売り上げを目指す。

医療分野でもクラウドを活用することで、地域医療との連携などによる医療費の抑制などが全世界的に求められるようになってきており、ハードウェアとソフトウェアの両面を提供していることが強みになるという

また、リテール分野はIBMからリテール・ストア・ソリューション(RSS)事業を買収しており、POSの世界シェアはトップシェアとなる26%へと拡大、顧客としても米国の大手小売店などが入ってくることもあり、設備やKIOSK、デジタルサイネージなどまで含めたトータルなワンストップソリューションの展開のほか、リテール向けクラウドソリューションの提供などを行っていくことで、2015年度で4000億円の売り上げを目指すとしている。

リテール関連ではIBMよりRSS事業を買収し、POSのシェアは世界トップとなる。これに合わせて米国の大手小売り店などが顧客となる強みを活かした事業展開を進めていくという

さらに、デジタルプロダクツ分野は、ハードウェア依存からの脱却を明言、サービス・ソリューションを収益の柱にするとし、BtoB向け、BtoC向け、ホームソリューション向けそれぞれにソフトウェアやサービスを提供していくことで2015年度で2000億円の売り上げを目指すとした。

ハードウェアを単に提供するビジネスから、クラウドを活用したソフトウェアやサービスの提供による収益確保を目指していく

グローバルな生産体制の構築への再編により新興国展開を加速

なお、同社では上述したような事業転換に加え、事業構造改革として、新興国でのビジネスを加速するため生産体制の構築として、国内はものづくりのノウハウがあるため、拠点集約をしつつ高付加価値品の生産を残すが、社会インフラのように国ごとの政策が絡むようなものや、域内FTAなどが活用できる地域での生産拡大などを推し進めていく計画。

また、テレビ事業については「2011年度は地上デジタル放送への移行終了に伴う市場の縮小と供給過剰による売価ダウンが、新興国での売り上げ拡大でカバーできずに赤字に転落した。需要の変動予測やサプライチェーンマネジメント(SCM)管理などにも課題があった」(同)としており、体質の再強化に向け、国内での生産を終息させ、ODMを活用していくほか、機種展開の統合強化としてモデル数やパネル数の絞り込みや金型部品などの共有化を図っていくとする。加えて、より新興国市場での売り上げを確保していくことを目指し、新興国向け製品およびサービスの拡充、ならびに広告費、営業人員の増大を図っていくことを予定している。

国内でのテレビ生産は終息となり、今後は海外のODMによる生産が拡大されることとなる

なお、同社ではこれらの事業転換と構造改革を実行していくことで、2011年から2014年までの全世界の名目GDP成長率5%を上回るCAGR9%(2011~2014年度)の成長を達成していきたいとしている。

2011年度から2014年度までの売り上げおよび営業利益目標。新興国の比率が拡大するにつれ、相対的に日本の比率が低下していく。ただし、売上高の規模としては、2011年度も2014年度も2兆7000億円程度とほぼ同じで、横ばい傾向となるとの見方となっている