Agilent Technologiesの日本法人であるアジレント・テクノロジーは5月7日、パワーデバイス向けカーブトレーサ「B1505A」の機能を大幅に拡張すると発表した。測定電圧と測定電流の最大値を高めるとともに、ピコアンペア(10のマイナス12乗アンペア)級の微小電流測定にも対応した。シリコンのIGBTやパワーMOS FET、化合物半導体GaNデバイス、化合物半導体SiCデバイスなどの特性評価や故障解析などに適しているという。機能拡張版「B1505A」の発売は6月1日、出荷開始は9月を予定している。

機能拡張版の「B1505A」。左が高電圧ユニット、中央がカーブトレーサ本体、右が高電流ユニット兼測定治具

既存の「B1505A」と機能拡張版の最も大きな違いは、測定可能な最大電圧と最大電流を大きく引き上げたこと。既存の「B1505A」では最大電圧が3kV、最大電流が40Aであったのに対し、機能拡張版の「B1505A」では最大電圧を10kVと3倍強に、最大電流を1500Aと37.5倍に増強した。自動車のボディ制御やハイブリッド車、電気自動車、産業機器などに使われるパワーデバイスは、低電流領域では電圧が200V~5kVと高く、低電圧領域では電流が数百A~千Aと大きい。このため、既存の「B1505A」では対応できなかった。

既存の「B1505A」が対応していた電圧(横軸)と電流(縦軸)の範囲(薄い青色の部分)

機能拡張版の新「B1505A」が対応する電圧(横軸)と電流(縦軸)の範囲(薄い青色の部分)

ハードウェアでの大きな違いは、カーブトレーサの本体をそのままに、高電圧と大電流に対応したハードウェア・ユニット群やモジュール群などを開発したことだ。高電圧対応では最大電圧10kVのハードウェア・ユニット「N1268A」を、大電流対応では最大電流1500Aのハードウェア・ユニット「N1265A」を用意した。なお「N1268A」は測定治具を兼ねている。

また高電圧中電流測定に対応したハードウェア・ユニット「N1266A」を開発した。「N1266A」は縦軸を電流、横軸を電圧とする直交座標系で±1500V(0A)と2.5A(0V)を結ぶ直線を最大動作点とする領域、あるいは±2200V(0A)と1.1A(0V)を結ぶ直線を最大動作点とする領域で電力をパワーデバイスに供給する。

それからMOSトランジスタのパラメトリック・テスト用にシングルスロットのモジュール「B1511A」を用意した。10fA(フェムトアンペア。1フェムトアンペアは10の15乗分の1アンペア)と極めて細かな分解能で電流を出力するモジュールである。

機能拡張版「B1505A」のハードウェア・ユニット群とモジュール群。「NEW」とあるのが機能拡張版で新たに用意されたもの

最大電流1500Aの超高電流ユニット(UHCユニット)「N1265A」を使うと例えば、IGBTモジュールのコレクタ電流を1500Aときわめて高い値にまで拡大したときのコレクタ電圧-コレクタ電流特性を測定できる。また最大電圧10kVの超高電圧ユニット(UHVユニット)「N1268A」を使うと例えば、10Vまでの絶縁破壊電圧の評価や分解能がピコアンペアでのリーク電流の解析が可能になる。

最大電流1500Aの超高電流ユニット(UHCユニット)「N1265A」を使用した測定事例(左)と、最大電圧10kVの超高電圧ユニット(UHVユニット)「N1268A」を使用した測定事例(右)

高電圧中電流測定に対応したユニット(HVMCU)「N1266A」を使うと、1200Vと高い電圧で500mAと大きな電流を流す測定を可能にする。例えばハイブリッド車のインバータ制御ユニットでは、1200Vで200mAという厳しい測定条件を要求する。こういった用途に適したモジュールだと言える。

高電圧中電流測定に対応したユニット(HVMCU)「N1266A」を使用した測定事例

このほか、最近になって低抵抗化が著しい、パワーデバイスのオン抵抗測定にも対応した。1mΩを切るようなオン抵抗をμΩクラスの分解能で測定できる。超高電流ユニット(UHCユニット)「N1265A」を使用し、4端子のケルビン抵抗測定に対応することでパワーデバイス両端の電位降下をきわめて正確に測定し、抵抗を算出できるようにした。

LDMOSトランジスタのオン抵抗測定事例。10A~300Aの電流範囲で1mΩ未満と低いオン抵抗を測定できている

パワーデバイスは大電流を流すので、自己発熱によって温度が上昇する。また周囲の温度変化によって特性が変化する。こういった温度変化による特性の変化を測定するため、測定治具を兼ねるユニット「N1265A」には熱電対を装備した。パワーデバイスの温度測定用熱電対と周囲温度測定用の熱電対の、二つの熱電対がある。温度をトリガとする測定も可能である(温度制御機能は装備されていないので、この点は注意されたい)。

温度測定機能の概要。測定治具を兼ねるユニット「N1265A」に熱電対を装備した

また化合物半導体のGaNデバイスに特有の現象「電流コラプス現象」の測定にも対応した。これはオフ状態での電圧印加によってデバイスのオン抵抗が高くなる現象である。高電圧をストレスとして印加したあとに、素早く電圧電流特性の測定に切り換えることで、電流コラプス現象を測定する。このために高電圧/高電流を高速で切り換えるスイッチ「N1267A」を開発した。

GaNデバイスの「電流コラプス現象」を測定。50Vの電圧ストレスを加えることで、GaNトランジスタのドレイン電流が低下している

このほか、機能拡張版の「B1505A」は既存の測定治具「N1259A」も利用できる。超高電流ユニット兼測定治具「N1265A」と併せ、2種類の測定治具を使用可能になった。両者を使い分けることで、パワーデバイスの特性評価を迅速に進められる。

既存の測定治具「N1259A」(左)と機能拡張版の測定治具(右)

ハードウェア以外では、機能拡張版「B1505A」ではソフトウェアがアップデートされた。アップデート版ソフトウェアによる最大の変化は、オシロスコープ機能が使えるようになったことである。元々、ハードウェアとして波形モニタ機能が組み込んであったのを、ソフトウェアの変更でユーザーが使えるようにした。なお既存の「B1505A」では、ソフトウェアのアップデートは有償になる。

オシロスコープ機能が利用可能に

機能拡張版「B1505A」の価格(税抜き参考価格)は、最小構成(本体と高電圧測定ユニット「B1513B」の組み合わせ)が450万円から。10kVと1500Aの測定に対応した構成(本体と「N1256A」、「N1268A」、5個の「B1514A」(中電流ユニット)、ケーブル、アクセサリなど)は2200万円。