スパコン稼働のためには見えなくても重要なインフラ設備

2011年の6月と11月にTop500の1位になった「京コンピュータ(理化学研究所の呼び方は「京」、あるいは「京」コンピュータである)」では、当然ではあるが、計算ノード群に注目が集まり、筆者のこれまでのレポートもSPARC64 VIIIfxプロセサやTofuインタコネクトを含めた計算処理を行う部分に関するものが大部分であった。

この部分は氷山で言えば水面上に出ている部分であるが、氷山の水面下の部分のように、これらの計算ノードを動かすためのインフラストラクチャの方がより多くのスペースを占めている。今回、この京スパコンのインフラストラクチャに焦点を当てて取材を行ったので紹介したい。

コンピュータは電気で動く。従って、電気を供給してやる必要がある。そして、コンピュータを動作させた電気のほぼ全てが熱になる。この熱を排出してやらないと、どんどん熱くなってコンピュータが動かなくなってしまう。つまり、京コンピュータを動かすには電気の供給系と熱の排出系というインフラストラクチャが必要である。更に、コンピュータを設置し、地震などから守る建物も必要である。

京コンピュータの消費電力は最大20MWと想定して施設が作られている。これは最大値であり実際の消費電力はもっと少ないが、仮に、24時間×30日間、 20MWを連続して消費すると、14,400,000kWhとなる。標準家庭の消費電力は1カ月で300kWh程度であるので、これは4万8000戸分に相当する。これだけの大量の電力を供給し、結果として発生する熱を排出する能力を持つインフラストラクチャを作るのは容易ではない。

京コンピュータは神戸のポートアイランドにある理化学研究所の計算科学研究機構(Advanced Institute for Computational Science:AICS)に設置されている。神戸一の繁華街である三宮からポートライナーに乗って15分で京コンピュータ前駅に着くと、AICSは駅の隣である。

理研AICSはポートライナーの京コンピュータ前駅にある

AICSは計算機棟、研究棟、熱源機械棟と特高施設からなり、敷地は約2haで、建物ののべ床面積は22,000m2を超える。なお、このAICSの施設の設計は、東京スカイツリーを設計した日建設計が担当したものである。

AICSのロビーに展示されている施設の模型。手前の横長の部分が研究棟、その奥の大きな建屋が計算機棟。その右が熱源機械棟、その後ろの小さな建物が70kVの特高施設

計算機棟の1階がエントランスになっているが、その前にそろばん玉のオブジェがある。黒いそろばん玉が17個あり一番上に金色の聖火台のような飾りが載っている。17個のそろばん玉は、順に10の0乗(1)、10の1乗(10)、…を意味し、一番上の玉が10の16乗の1京を表している。

AICSエントランス前のそろばん玉オブジェと計算機棟の一部

研究棟の外観

計算機棟の窓は幅の異なる縦棒がランダムに並んだような不思議な配置であるが、これは稲の遺伝子配列を図案化したものであるという。

研究棟の外壁はガラス張りになっているが、写真に見られるように空いている部分があり、建物との間が煙突のように空気を通して冷却効果を高めているという。また、この施設は海岸にあるが、ガラスとアルミを主体とした外壁は塩害に強く、メンテナンスコストも低いとのことである。

計算機棟は地上3階、地下1階であるが隣の研究棟は地上6階、地下1階となっている。また、計算機棟は重いコンピュータが載るので頑丈な構造になっているが、研究棟は普通のビルと同様な構造である。

研究棟と計算機棟の建屋の構造

しかし、計算機棟の各フロアと対応する研究棟のフロアは繋がっており、この部分は廊下として使われているので、両者は一体の建物と見ても良い。

右側が研究棟、左側が計算機棟(出典:SS研での日建設計の発表資料)