国立天文台は4月、「アルマ(ALMA)望遠鏡」が、みなみのうお座の1等星フォーマルハウトを取り囲む塵の環をこれまでにない鮮明さでとらえ(画像1)、さらにその環が近くの軌道を回る2つの惑星によって整形されていることを明らかにしたと発表した。この結果は、昨年9月から開始されたアルマ望遠鏡初期科学観測に対して全世界から公募された観測研究の中で、最初の成果となるもの。2011年9月から10月にかけて観測が行われた。
画像1。フォーマルハウトの周囲の細い塵の環ハッブル宇宙望遠鏡が可視光で撮影した画像(青色で着色)に、アルマ望遠鏡の電波観測結果(オレンジ色に着色)をかさねたもの。フォーマルハウト自体は、環の中央の電波が強い箇所に位置している |
成果は、フロリダ大学セーガン・フェローのアーロン・ボレイ氏が率いる共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、「Astro Physical Journal Letters」に掲載された。
アルマ望遠鏡、正式名称「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」は、日本を含めて、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設中の国際天文施設だ。建設中ではあるが、アンテナの台数が揃ってきたことから初期科学観測がすでにスタートしており、今回が初の成果となった。
ALMA望遠鏡は、最終的には66台のパラボラアンテナを組み合わせる形となる干渉計方式の巨大電波望遠鏡だ。その内訳は、直径12mのアンテナを50台組み合わせるアンテナ群と、直径12メートルのアンテナ4台と直径7mアンテナ12台からなる「アタカマコンパクトアレイ(ACA:Atacama Compact Array)」で構成されている。今回の観測では、建設済みの1/4以下の台数のアンテナが使われた形だ。
そして今回の観測対象となったフォーマルハウトは、地球からわずか25光年の距離にある恒星で、この星の周囲には塵でできた環があることが、これまでの観測から知られていた。アルマ望遠鏡はこの環を、電波望遠鏡としては過去最高の解像度で観測し、環の内側と外側の境界が非常にはっきりしていることを発見したのである。
研究グループは、アルマ望遠鏡による観測画像とコンピュータシミュレーションを比較し、環の内側と外側に位置する2つの惑星の重力によってこの環の形が保たれていると結論づけた。
塵でできた環の形が惑星や衛星の重力によって保たれているという例は、1980年に惑星探査機ボイジャー1号が土星の環を詳しく観測した際に初めて観測している。また、天王星が持つ環の内の1本も、その内側と外側を回るコーディリアとオフィーリアという2つの衛星の重力によって形が保たれているということが確認済みだ。
羊飼いが羊の群れを統率する様子に似ていることから、そのような働きを持つ衛星を「羊飼い衛星」と呼ぶ。今回アルマ望遠鏡で明らかになったフォーマルハウトの環も、同じような「羊飼い惑星」によって形が保たれていると考えられるという。
羊飼い惑星(衛星)は、環を構成する塵に重力を及ぼしてその運動に影響を与える仕組みだ。環の内側を回っている惑星(衛星)は、当然の如く環を構成する塵よりも速く中心星を回っている(軌道運動は、内側の方が速い)。このため、環を構成する塵がこの惑星の重力によってエネルギーを受け取り、外側に押し出されるのだ(速度が上がって吹き飛ばされる)。
一方で環の外側を回っている惑星は、環の中の塵よりも遅く中心星を回っているため、塵はその惑星の重力を受けてエネルギーを失い、内側に移動する(速度が下がって落っこちる)。結果として、環を挟む2つの惑星のバランスによって、環は細く保たれるというわけだ(画像2)。
ただし、それらの羊飼い惑星そのものはアルマ望遠鏡による観測画像には写っていない。しかし、環に加わっているであろう重力の大きさから、その質量を見積もることは可能だ。計算によれば、火星の質量よりは大きく、地球の質量の3倍よりは小さいというものだった。これは、研究者がこれまで考えていたこの惑星の質量よりもずっと小さいものである。
実は、2008年にハッブル宇宙望遠鏡がフォーマルハウトを撮影した際に、環の内側に惑星らしき天体が写っていた。その惑星は、太陽系で2番目に大きな土星よりも大きいだろうと考えられていたが、その後に行われた赤外線観測ではこの惑星を見つけることができなかったという経緯がある。
赤外線観測でこの惑星が見えなかったことで、ハッブル宇宙望遠鏡による惑星の「発見」に疑いを持つ研究者も現れた。また、ハッブル宇宙望遠鏡の画像に写し出されているフォーマルハウトの環は非常に小さい塵でできたものだが、このように小さい塵は星が放つ光の圧力によって外側に押し広げられるため、環の構造もはっきりしなかったのである。
アルマ望遠鏡を使った観測では、ハッブル宇宙望遠鏡が観測する可視光よりも波長のずっと長い電波をキャッチするので、より大きな(直径1mm程度)塵の分布を明らかにすることが可能だ。
この程度の大きさの塵になると光の圧力では簡単には移動しないため、環が本来持っている構造を調べることができるのである。こうして、内側と外側の境界が非常にはっきりした環の姿が、アルマ望遠鏡の観測で初めて判明したというわけだ。
羊飼い惑星の質量はおそらく小さいはずだと研究者はいう。惑星が大きいと重力が強くなり、環が破壊されてしまうからだ。赤外線観測でこれらの惑星が発見されなかったのは、惑星が想定よりも小さかったからだろうとしている。
フォーマルハウトを取り囲む塵の環の幅は太陽と地球の間隔(1天文単位:約1億5000万km)のおよそ16倍あるが、その厚みは環の幅の約1/7しかないこともアルマ望遠鏡の観測から明らかになった。これまでに考えられていたよりも、環はずっと細くて薄いことがわかったのだ。
そしてこの環の半径は、約140天文単位になる。我々の太陽系では、冥王星でさえ太陽との距離(長半径)は約40天文単位なので、この環がいかに巨大なものかがわかる。この羊飼い惑星たちは小さく、フォーマルハウトから非常に遠いため、これまでに発見された普通の恒星を回る惑星としては最も冷たいものだろうと、研究者らは考えているという。
画像1のクレジット
ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope
A.C. Boley (University of Florida, Sagan Fellow), M.J. Payne, E.B. Ford, MShabran (University of Florida), S. Corder (North American ALMA Science Center, National Radio Astronomy Observatory), and W. Dent (ALMA, Chile), NRAO/AUI/NSF; NASA, ESA, P. Kalas, J. Graham, E. Chiang, E. Kite (University of California, Berkeley), M. Clampin (NASA Goddard Space Flight Center), M. Fitzgerald (Lawrence Livermore National Laboratory), and K. Stapelfeldt and J. Krist (NASA Jet Propulsion Laboratory)