日本原子力研究開発機構(JAEA)と大阪大学(阪大)は3月1日、ウラン化合物超伝導体「URu2Si2」において、超伝導と密接に関係する電気抵抗の成分が存在することを発見したと共同で発表した。成果は、原子力機構先端基礎研究センターの立岩尚之研究副主幹、松田達磨研究副主幹、芳賀芳範サブリーダー、Zachary Fiskグループリーダー及び阪大の大貫惇睦教授(客員研究員)らの共同研究グループによるもので、詳細な研究内容は米物理学会誌「Physical Review」オンライン版に現地時間2月28日に掲載された。

超伝導は、固体中の電子が引き起こす現象の中でも、最も量子効果が現れたものだ。超伝導の実現には、2個の電子を結びつける引力が必要で、鉛など単体金属の超伝導体では結晶格子の振動がその役割を果たす。

超伝導現象の基本的なメカニズムや超伝導特性は1957年にBardeen,Cooper,Schriefferらの「BCS」理論によって説明され、この理論で基本特性が説明される超伝導物質を「従来型」と呼んでいる。

一方、電子間のクーロン斥力が強い金属(強相関電子系)では、この機構による超伝導は実現しにくいにもかかわらず、1979年にはSteglichらにより「CeCu2Si2」が、1986年には銅酸化物高温超伝導体が発見された。

その後も超伝導体の発見は相次ぎ、特に「セリウム・ウラン化合物」超伝導体では電子の有効質量が自由電子の100倍から1000倍程度重くなっている「重い電子」による超伝導が実現している。

強相関電子系物質の超伝導特性は、従来型超伝導体と著しく異なるため、「非従来型」と呼ばれており、今回のURu2Si2もそのような物質の1つで、1985年に発見された。超伝導状態(転移温度Tsc=1.4K)における比熱などの温度依存はBCS理論で説明できず、超伝導は「非従来型」であることが明らかにされている。

一方URu2Si2には、超伝導相より高い温度17.5Kで別の二次相転移があることも特徴の1つ。この相転移の起源は、発見以来4半世紀以上にわたって研究が行われてきたが未だによくわかっておらず、「隠れた秩序」と呼ばれている。最近の研究で、電子系の対称性が破れることはわかったが、その詳細は依然として不明であり、重い電子を結びつける引力の起源について手がかりがない状態だ。

研究グループは、URu2Si2の超伝導を担う電子がどのような環境に置かれているのか調べるため、電子が受ける散乱、つまり「電気抵抗率ρ」を測定した。普通の金属では、「準粒子(電子)散乱」は温度の2乗の寄与(ρ∝T2)を電気抵抗に与える。ただし、低温で不純物や格子欠陥などによる電子散乱がもたらす残留抵抗が大きければ、そのほかの寄与を分離することが困難となってしまう。

電気抵抗から正確な情報を引き出すためには、残留抵抗の小さい超高純度の単結晶試料を作製することが不可欠となる。そこで研究グループでは、長年にわたって「固相電解法」によるウラン金属の精製と「単結晶育成手法」及び超高真空下での熱処理を組み合わせることにより、世界でも最高純度を持つURu2Si2の単結晶育成に成功したというわけだ。

高品質のサンプルを用いた精密な測定の結果、URu2Si2の電気抵抗ρは通常の金属と異なる異常な成分が存在し、電気抵抗は式1(画像1)と表されることが判明した。第2項は通常金属で見られる電子-電子散乱によるものだが、第1項は「異常」散乱と呼ぶべき寄与で、これが異常な電気抵抗の成分を表している。

画像1。式1

さらに研究グループは超伝導転移温度と、異常な電気抵抗の成分の相関を調べるため、1.5GPaまで圧力を加えてこれらを意図的に変化させた。画像2はURu2Si2の温度-圧力相図だ。横軸が圧力(GPa)、縦軸は温度(K)となる。

常圧(0GPa)において、URu2Si2はT0=17.5Kで隠れた秩序が現れ、Tsc=1.4Kで超伝導状態へと転移する。高圧下では0.8GPaに一次相転移線Tx(P)が存在し、基底状態は「隠れた秩序」から反強磁性状態へと相転移するという具合だ。超伝導転移温度Tscは加圧と共に減少し、超伝導は反強磁性状態では存在しない。

画像3に示したのが、常圧(0GPa)と0.35、0.75GPaの圧力下における電気抵抗率ρの温度依存だ。電気抵抗の温度依存を式1で解析し、各圧力で温度一次と二次の項の係数α1とα2を決定した。「隠れた秩序」では電気抵抗の一次の項の係数α1が大きく、ρの異常な温度依存を表している。

画像2。URu2Si2の温度-圧力相図。矢印は、一定圧力で温度を変化させながら電気抵抗を測定したことを示す。画像3を参照のこと

画像3。URu2Si2の圧力下電気抵抗

さらにデータを詳細に調べたところ、興味深いことが判明した。圧力を加えると超伝導転移温度Tscは変化し、同時に、係数の比(α1/α2)が徐々に変わる。α1/α2とTscの関係を示したのが、画像4だ。

これからわかるように、Tscとα1/α2の間に線形関係(α1/α2∝Tsc)が成り立つことが明らかになった。α2はほとんど圧力に依存しないので、電気抵抗の一次の項の係数α1と超伝導転移温度Tscがほぼ比例関係にあることを意味する。前述の通り、温度の一次の項は電気抵抗の「異常な」部分を示しており、この実験結果は、「隠れた秩序」からの異常な電子散乱が超伝導を引き起こすことを意味しているというわけだ。

画像4。URu2Si2の高圧下電気抵抗率を解析して得られたα1/α2と超伝導転移温度Tscの関係

最近、銅酸化物超伝導体や有機物超伝導体、鉄ヒ素系超伝導物質でも、式1を用いた電気抵抗の系統的解析が行われ、電気抵抗の一次の項の係数α1と超伝導転移温度Tscの間にほぼ比例関係が成立することが明らかにされている。今回の研究の結果、「強相関f電子系化合物」でも初めてこの関係式が成り立つ例があることが明らかにされた。

結晶構造や、構成元素、電子系の次元性などが異なる物質にも関わらず、この単純な関係式が成立することは驚異的といえよう。強相関超伝導物質の持つある種の「普遍性」の可能性もある。

今回の研究が明らかにしたのは、未だに起源のわからない「隠れた秩序」の異常な電子散乱と超伝導との密接な関係だ。その相関を表す関係式はほかの強相関電子系超伝導物質でも成立する普遍的なものであることが明らかとなった。

これら強相関電子系化合物では、銅酸化物超伝導体の「擬ギャップ相」をはじめとして、起源のよくわからない「奇妙な」電子状態がいくつか報告されている。URu2Si2の「隠れた秩序」も、何らかの共通性があるのかも知れないという。

「隠れた秩序相」について、特に近年、「ウラン5f電子波動関数」の「多極子自由度」に起因した特異な理論モデルが多く提案されている。一方、前述したように、最近発見された結晶構造転移を伴わない電子系の対称性の低下は、銅酸化物超伝導体の「擬ギャップ相」でも報告され、液晶における棒状分子の集合状態に例えて「ネマチック電子状態(electronic nematicity)」と呼ばれ、注目を集めている状況だ。

核燃料物質でもあるウランを含む超伝導物質URu2Si2の研究を通して明らかにした、「奇妙な」電子状態と超伝導の強い相関は、強相関電子系の超伝導一般に共通するものであり、高温超伝導体の普遍的な物性理論構築に貢献し、より高い転移温度をもつ超伝導体開発につながることが期待されると、研究グループではコメントしている。