千葉工業大学が開発した「原発対応版Quince」が2月20日、東京電力・福島第一原子力発電所に向け出発した。昨年6月より投入されていた1号機がケーブルの切断によって帰還不能になったのを受け、同大学が開発していたもの。放射線量が高く、作業員には危険な場所に入り込んで、線量計測や写真撮影などのミッションを行う。

2台の「原発対応版Quince」を搭載したトラックが千葉工大・芝園キャンパス(千葉県習志野市)を出発した

トラックを見送る開発チーム。右端がリーダーの小柳栄次・未来ロボット技術研究センター(fuRo)副所長

「原発対応版Quince」は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発したレスキューロボット「Quince」をベースに、原発向けの改造を施したもの。車体の全面がクローラで覆われ、4本のサブクローラも装備しており、原子炉建屋の階段も自在に登れるほどの高い走破性能を持つのが特徴だ。

今回追加投入される原発対応版Quinceの2号機(右)と3号機(左)

搭載される装備。線量計や温度計などのセンサは共通している

追加投入されるのは2台。構成はほぼ共通だが、個別の装備として、2号機にはダストサンプラー、3号機にはレーザーレンジファインダ(3Dスキャナ)が搭載される。今回も通信方法は有線だが、もしケーブルが途中で切れてしまっても、もう1台が救出に向かい、救出ロボット経由で通信ができるので、1号機のように帰還不能にはならない。

この2号機と3号機は、先月末のプレス発表では、2月10日~15日に出発する見通しであったが、それが遅れたのは、東電側から急遽追加ミッションの依頼があり、そのための改造が必要になったからだ。

新たに追加されたミッションは、原子炉建屋5階にある燃料プールの内側の様子を見ること。昨年10月、2号建屋の5階にはQuince1号機が到達していたが、カメラの位置が低かったため、そのままでは高さ1.2mの塀の内側の様子までは見ることができなかった。そのため、今回Quince2号機にアームを追加し、カメラ位置を高くする対策を取った。

カメラの位置を高くして、プールの塀の内側も覗き込む。カメラにカバーも付けたのは、ケーブルが絡みにくいようにするため

1号機の経路は青いライン。瓦礫のために、燃料プールの近くまでは行けなかった。今回は左上の階段からアクセスする予定

そのときの実際の映像。改造前のQuinceでは、このような塀の向こう側の様子を撮影することができない

制御画面を見ると、Quinceがサブクローラを立てて、"背伸び"をしているのが分かる。これでも向こう側が見えなかった

また、2号建屋の内部には、1号機が出したケーブルがそのままになっており、これを横切るときに機体に絡まる恐れがあったため、2号機・3号機ともケーブルカッターを追加で装備した。ケーブルが低い位置にあればクローラで踏みつけ、高い位置に張った状態であれば支柱に取り付けられたカッターで前進しつつ切断する。

支柱の前面には、まるで刀のようにカッターが並べられている。ケーブルがあっても、そのまま進めば切ることができる

細かい点だが、リールも少し改良。針金でストッパーを作って、ケーブルがずり落ちないようにした。ケーブル長は500mある

これらの原発対応版Quinceは、千葉工大が社会貢献として費用を出して開発。東電に無償で貸与している。しかし、同大学にあるQuinceは残り1台しかないため、これは使わず、今後は次回投入に向けて、新型ロボットの開発を進める方針。

記者会見の後、2台のQuinceはただちに梱包

トラックへ搭載され、福島第一原子力発電所へ向かった