名古屋大学(名大)は2月2日、木質バイオマスに存在する「リグニン」化学構造を顕微鏡レベルで可視化する新たな分析技術を開発したことを発表した。研究は名古屋大学大学院生命農学研究科の福島和彦教授らの研究グループによるもので、成果は英植物科学専門誌「The Plant Journal」に2月1日に掲載(電子版は2011年11月16日に掲載済み)された。
再生エネルギーの1つであるバイオマスは、化石資源に変わる資源として期待されている。その中でも木質バイオマスは、エネルギーだけでなくマテリアル(材料)原料としても利用できるので、循環型社会の基盤材料の1つとして特に注目されている状況だ。
木質バイオマスの利用のカギを握っているのが、15~30%程度含まれているリグニンの有効利用である。そのために欠かせないのがリグニンの化学構造分析だ。しかしこれまでの手法では、試料を粉砕、または溶解させて科学的試薬により資源材料を解析・評価する方法が主流で、高度な技術を有する煩雑な実験操作となっていた。
またそれらの手法の欠点として、材料に含まれる物質の詳しい化学構造はわかるものの、それらの物質がどのように分布しているのかという情報を得られない点だ。その一方で、顕微鏡観察では植物細胞といった材料の微視構造はわかるが、化学構造の情報を得られないという欠点があった。
今回、福島教授らは「飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)」を用いて、植物の主要成分であるリグニン化学構造を簡便かつ正確に可視化する分析技術を開発することに成功。同技術により、化学的な処理をすることもなく、どのようなリグニン構造が細胞のどこに存在するのかを一度に解析することが可能となった。つまり、顕微鏡観察と化学分析が融合したというわけだ(画像1)。
なおTOF-SIMSとは、金イオンやガリウムイオンを一次イオンとして試料表面に照射し、それによって派生する二次イオンを(画像2)、「飛行時間型質量分析計」(イオンや電子などの飛行時間を計測することで対象物の質量を測定する分析装置)により解析する装置である。試料表面に存在する複数の有機物分子の種類と分布を、顕微鏡レベルの空間解像度で同時に測定できるのが特徴だ。
リグニンを除去して多糖を利用するバイオエタノールや紙パルプ生産などにおいて、今回の技術は有用なバイオマス評価分析法として活用されるものと福島教授らは期待しているとした。