東北大学は1月30日、メラニン色素が微小管に沿って通常とは逆向きに輸送される「逆行性微小管輸送」の仕組みを解明したと発表した。東北大学大学院生命科学研究科の福田光則教授、大林典彦助教らによる研究で、成果は英科学雑誌「The Journal of Cell Science」電子版に掲載された。

ヒトの肌や髪の毛に含まれるメラニン色素は、有害な紫外線から身体を守るために重要な役割を果たしている。メラニン色素は「メラノサイト」と呼ばれる特殊な細胞でのみ合成され、「メラノソーム」と呼ばれる袋(小胞の一種)に貯蔵されている形だ。

核の周辺で成熟したメラノソームは、細胞内に張り巡らされた2種類の交通網である「微小管」と「アクチン線維」に沿って細胞内を輸送され、隣接する皮膚や髪の毛を作る細胞(「ケラチノサイト」や「毛母細胞」)に受け渡され、肌や髪の毛の暗色化が起こる仕組みである(画像1)。

なお、細胞内には「細胞骨格」と呼ばれるタンパク質の線維が多数存在しているが、それらは細胞の形態を保つだけでなく、メラノソームを始めとする小胞の運搬用道路として利用されているという2つの機能を持つ。前述した微小管は画像1の太い道路に相当する最も太い輸送路で、細胞の中心部から放射状に伸びているのが特徴。そして、両方向(「順行性」=細胞の中心から辺縁部方向、「逆行性」=細胞辺縁部から中心方向)の輸送を受け持つ。一方、最も細いアクチン線維(画像1の細い道路に相当)は細胞の周辺部に多く、一方向にのみの輸送を行うという具合だ。

画像1。メラノサイトにおけるメラニン色素(メラノソーム)の動き。(1)メラノサイトで合成されたメラニン色素はメラノソームと呼ばれる袋(小胞)に貯蔵される。(2)(3)(4)微小管とアクチン線維に沿って細胞膜近傍まで輸送される。(5)細胞膜につなぎ止められたメラノソーム。(6)最終的に隣接するケラチノサイトに受け渡される。メラノソームは微小管上を両方向(順行性・逆行性)に、アクチン線維上を一方向に運搬され、後者に関してはRab27A-Slac2-a-ミオシンVa複合体(画像のトラック役の分子複合体)による輸送の仕組みが明らかになっているが、前者の微小管輸送の仕組みはこれまで謎に包まれていた

肌や髪の毛に正しくメラニン色素を沈着させるためには、メラノサイトの内部におけるメラニン色素の輸送が重要なプロセスである。実際、低分子量Gタンパク質「Rab27A」を欠損すると、アクチン輸送の障害によりメラノソームが核周辺で凝集する(結果的に肌や髪の毛が白くなる)ことが知られている。

Rab27Aは荷札役であり、ここに運転手役の「Slac2-a」と、運送トラック役のモータータンパク質「ミオシンVa」が結合することにより、積み荷であるメラノソームのアクチン輸送が行われる仕組みだ。この仕組みが損なわれると、微小管からアクチン線維にメラノソームが受け渡されなくなり、結果的にメラノソームは核周辺で凝集してしまう(画像2・右上)。

画像2。正常細胞、Rab27A欠損、Rab27A/Mreg欠損およびMreg過剰発現細胞のメラノソーム分布。正常マウス培養メラノサイト(melan-a細胞:左上)からRab27A分子を欠損すると核周辺でのメラノソームの凝集が起こるが(右上)、ここからさらに逆行性微小管輸送に関与するMreg分子を欠損するとメラノソームの細胞膜周辺での分布がほぼ回復する(右下)。一方、正常細胞にMreg分子を過剰に発現すると、逆行性微小管輸送が促進され、メラノソームが核周辺で凝集する(左下)。スケールバーは20μm

面白いことに、Rab27Aを欠損するため遺伝的に毛並みが白いマウス(ashen)に、さらにもう1つ遺伝的変異「dsu」(dilute suppressor)が加わると、毛並みが黒く回復する。2004年にdsuの原因遺伝子産物が同定され、「Mreg」と命名されたが、214アミノ酸からなる小さな分子で既知のタンパク質とは相同性がなかったため、その機能はこれまで不明だった。

またMregは、毛並みの回復に関して、その微小管輸送制御への関与が示唆されていたが、長距離・両方向に動く微小管輸送の仕組みがまったく解明されていなかったため、Mreg欠損による毛色の回復の仕組みは長い間、謎に包まれていたのである。

今回の研究では、メラノソームの分布が正常なメラノサイト(コントロール細胞:画像2・左上)、および遺伝的にRab27Aを欠損するためメラノソームが核周辺で凝集している培養メラノサイト(Rab27A欠損細胞、画像2・右上)の2種類の細胞を用いて、Mregの微小管輸送への関与が検討された。

具体的には、正常メラノサイトへのMregの過剰発現、あるいはRab27A欠損細胞でのMreg分子(あるいはMreg結合分子や「逆行性モーター分子」)のノックダウンを行った際の、メラノソーム分布への影響が評価されたのである。

なお、逆行性モーター分子とは、微小管上を逆行性(細胞辺縁部から中心部方向、正確には微小管のプラス端からマイナス端方向)に輸送するモーター分子の本体のことだ。細胞骨格上の輸送には運送トラック役のモータータンパク質が必要で、微小管の順行性の輸送には「キネシン」、逆行性の輸送には「ダイニン-ダイナクチン」、アクチン輸送には「ミオシン」が関与すると考えられている。

ダイニン-ダイナクチンが逆行性モーター分子(モータータンパク質の複合体)であり、ATP(アデノシン三リン酸)の加水分解のエネルギーを用いて微小管上を逆行性に輸送する。ダイニンはモーター分子の本体で、ダイナクチンは複数のタンパク質のサブユニットからなり、微小管と結合する部分、ダイニンと結合する部分、「RILP」(Rab interacting lysosomal protein:リルプ)と結合する部分「p150Glued」からなる。

そして評価の結果、以下のことが明らかとなった。

  1. Mreg分子は成熟メラノソーム上に存在し(画像3・4)、正常メラノサイトへの過剰発現により、メラノソームの核周辺での凝集が引き起こされる(画像2・左下)
  2. Rab27A欠損メラノサイトにおいて、Mreg分子をノックダウンすると、メラノソームの分布がほぼ回復する(画像2・右下)
  3. MregはRILPとの直接結合を介して、逆行性微小管モーター分子であるダイニン-ダイナクチン複合体と相互作用する(画像5・6)

画像3。Mreg分子の成熟メラノソームへの局在化。緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合したMreg分子(緑色)を培養メラノサイトに発現すると、メラノソーム上に局在する(画像右列)。右上の画像の矢印は、メラノソームに赤色の疑似カラーを付けているため、Mreg分子と重なって黄色に見えてる部分。左上の画像のコントロールの細胞ではGFPのみを発現しているため、メラノソームの赤とはまったく重なっていない。スケールバーは20μm

画像4。成熟メラノソームを生化学的に単離すると、ここにはメラニン合成酵素(「チロシナーゼ」や「Tyrp1」)、アクチン輸送を行うRab27A、逆行性微小管輸送を行うMreg分子が含まれているが、ほかのオルガネラ(膜画分)のマーカーは含まれていない

画像5。逆行性微小管輸送を行うMreg複合体のモデル図。成熟メラノソーム上に存在するMreg分子は、RILPを介して逆行性モーター分子・ダイニン-ダイナクチンと複合体を形成し、微小管上を逆行性(細胞辺縁部から核の方向)に輸送する仕組みだ

画像6。逆行性微小管輸送を行うMreg複合体をトラックによる輸送に例えてみた模式図

以上の結果から、成熟メラノソーム上に存在するMreg分子は、まずRILPと直接結合し、次にこのRILPを介して逆行性モーター分子・ダイニン-ダイナクチン複合体をリクルートすることにより、メラノソームを逆行性(細胞辺縁部から核の方向)に輸送することが明らかとなった(画像5)。

例えてみると、Mregはメラノソームを逆行性に輸送する際の「荷札」の役割を果たし、この荷札を「運転手役のRILP」が認識して、「運送トラック役のダイニン-ダイナクチン複合体」に積み込み、「微小管でできた道路」を輸送すると考えられる(画像6)。

また、Rab27Aを欠損するメラノサイトでは、微小管からアクチン線維にメラノソームを受け渡すことができないため、Mreg-RILP-ダイニン-ダイナクチン複合体の機能によりメラノソームが核方向へと押し戻され、核周辺で凝集するものと推測されるというわけだ。このため、Rab27Aを欠損するメラノサイトでMregの機能も阻害されると、順行性微小管輸送(仕組みは未解明)が優位となり、メラノソームの分布が回復するのである。

紫外線を浴びるとヒトの体内ではメラニン合成酵素が活性化され、合成されたメラニン色素はメラノソームに貯蔵された後、細胞内を輸送され、最終的に肌や髪の毛に沈着する。肌の美白維持に関しては、メラニン色素(メラノソーム)の合成、輸送、転移(あるいは樹状突起の形成)をターゲットにした阻害薬の探索・開発が行われているが、メラノソームの輸送促進というコンセプトでの薬剤探索はこれまで行われていなかった。今回の研究で明らかになった逆行性メラノソーム輸送機構を担うMreg分子は、このコンセプトに合致する分子標的と考えられているというわけだ。研究グループでは、今後、Mreg分子の機能を阻害するような薬の開発が進めば、将来的に白髪防止・予防への応用も期待されるとしている。