高エネルギー加速器研究機構(KEK)とBelle実験国際コラボレーションは1月10日、KEKの電子・陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー:KEKB)を用いたBファクトリー実験において、「ボトム・クォーク」を含む新種のハドロン粒子「Zb(ゼットビー)」を発見したことを共同で発表した。成果は、「フィジカルレビューレターズ」に近日中に掲載される予定。
Zbは、6種類あるクォーク(画像1)の中で質量が2番目に重い「ボトム・クォーク」とその反粒子である「反ボトム・クォーク」を含むのが特徴。またこの粒子は電荷を持つことから、ボトム・クォークと反ボトム・クォーク以外に少なくともあと2個のクォークが結合した、合計4個以上のクォークからなるハドロン粒子の中でも特別な「エキゾチックハドロン」粒子であると考えられるという(画像2)。
Bファクトリー実験で利用されているKEKBは、世界最高クラスのルミノシティー(衝突型加速器の実験でどれだけたくさんの衝突事象を収集したかを表す量)を有しているのが特徴で、今回の発見は、加速器の衝突エネルギーを通常よりも約2.7%上げたデータの中から見つかった。
今回、この高いエネルギーで取得したデータから、まずボトム・クォークと反ボトム・クォークが結合した「ボトモニウム」と呼ばれる中間子に着目(画像3)。ボトモニウムとは、クォークと反クォークが強い力で結合してできた粒子のメゾン(中間子)の1種で、ボトム・クォークと反ボトム・クォークが結合したもののことを指す。その量子状態によって、「Υ(ウプシロン)」、「χb(カイビー)」、「hb(エイチビー)」と3種類がある。
今回は、Υとhbを含む事象に対し詳細な解析が行われ、その結果、ボトモニウム中間子と「荷電パイ中間子(π)」に崩壊する電荷を持った新粒子が2種類生成されていることが判明した(画像4・5)。これらの粒子は陽子の約11倍の質量を持ち、その質量値を用いて「Zb(10610)」および「Zb(10650)」と命名されたという次第だ。
なお、ボトモニウム中間子の電荷はゼロなので、電荷を持つZb粒子は少なくともあと2種類のクォーク、例えばアップクォークと反ダウンクォークといった具合だ(画像1)。
従来知られていた数百種類におよぶ中間子はすべて、1個のクォークと1個の反クォークが強い力で結合した状態として説明されてきたが、KEKB加速器を使ったBファクトリー実験では、「X(3872)」、「Y(3940)」、「Z(4430)」など、従来の理論では説明できない「エキゾチックハドロン」と呼ばれる10種類以上の粒子群を発見してきた。
これらの新粒子は、陽子のおよそ4倍から4.5倍の質量を持ち、チャーム・クォークと反チャーム・クォーク、およびほかの2種類と合わせて4個のクォークでできたハドロン粒子である可能性が指摘され、世界中の研究者が注目していた。今回の発見は、チャーム・クォークよりもさらに重いボトム・クォークを含む「エキゾチックハドロン」が存在していることを明らかに示した成果である。
Bファクトリー実験は、粒子-反粒子対称性の破れ(「CP対称性の破れ」)の起源解明を目指して1999年に実験が始まり、その成果が2008年の小林・益川両博士のノーベル賞受賞につながった。そしてそれに終わらず、予期せぬ成果として「エキゾチックハドロン」の相次ぐ発見をもたらし、これによって新しい研究対象が切り拓かれているのが現状だ。Belle実験の運転は既に終了しているが、世界最高のルミノシティーによる大量のデータが残されており、今後、まだまだ新たな発見が続く可能性がある。
さらに、KEKB/Belle実験の増強実験として2015年に実験開始を予定している「SuperKEKB/Belle II」計画においては、現在の50倍のデータ収集が目標だ。これにより、B中間子やタウ・レプトンの崩壊における新物理の発見を目指すいう。
また、ストレンジ、チャーム、ボトムなどのクォークの種類はフレーバーと呼ばれるが、今後の研究によって、こうした多彩なフレーバーを持ったエキゾチックハドロンの全貌が解明されるものとして期待されている。
クォークは強い力によって、単独では存在せずに、中間子などの複合粒子の中に閉じ込められてしまう。エキゾチックハドロンの全貌解明によって、強い力を記述する理論は「量子色力学(りょうしいろりきがく)」に基づいて、どのようなハドロン物質が生成されるのかという問題の理解がより一層進展することが期待されている。