半導体の分野では、医療アプリケーションが新しいイノベーションを牽引し続けています。より長時間動作が可能な血糖値計や安全性を高めた埋め込み式ペースメーカーなど、半導体はこれらのコンセプトを実用化する上で重要な役割を果たしています。医療用撮像に使われるICの進歩によって、この技術はさらに便利になり、低価格化も進んでおり、こうした進歩の直接的な結果として、CT(コンピュータ断層撮影)スキャンの利用は過去30年間で20倍に増えています。

CTスキャナの基本動作

CTスキャナは2次元のX線撮影画像を大量に収集し、その画像に基づいて対象物の3次元画像を生成します。このシステムで中心的な役割を果たす要素が、X線信号検出回路です。X線がシンチレータと相互作用すると、可視光線が発生し、この光を、対象物の反対側に設置したフォトダイオードアレイで検出します。フォトダイオードは、検出した光量に基づいて電流を生成し、撮影した大量の2次元X線画像を高度なソフトウェアで結合、2次元および3次元の画像を作成します。この手法により正確な画像が作成でき、心臓の鼓動さえも画像化する事ができるのです。

フロントエンド検出回路

前述の通り、フォトダイオードアレイは検出した光量に基づいて電流を生成します。この微弱電流をデジタル信号に正しく変換して計算を行うためには、電流信号を適切にコンディショニングする必要があります。このシグナルコンディショニング回路で中心的な役割を果たすのがオペアンプです。オペアンプは、電流から電圧への変換、ゲインとフィルタの提供、A/Dコンバータでデジタル信号に変換する前の信号のバッファに使用します。医療用撮像機器のオペアンプを選ぶ場合、考慮すべき重要なパラメータがいくつかあります。

入力オフセット電圧

フォトダイオードで生成した電流は比較的振幅が小さく、画像を正しく再現するにはこの電流量の変化を正確に捉える必要があります。微弱電流を電圧に変換する機能に加え、オペアンプにはゲインによって検出回路の分解能を高める事もできます。

このようなアプリケーションでは、オペアンプのオフセット電圧が重要です。オフセット電圧とは、出力電圧を増幅度で割算した値です。この電圧オフセットはオペアンプの回路構成によって決まり、大きさは数μVから数mVまで幅があります。

図1に、フォトダイオードを電流源として使う簡単なトランスインピーダンスアンプを示します。この例では、フォトダイオードで生成した電流IPDに抵抗RFを乗算した値が、オペアンプの出力電圧VOとなります。例えば、RFを100kΩと仮定します。この場合、フォトダイオードで生成された電流が10μA変化すると、出力電圧は1V変化します。

図1:簡単なトランスインピーダンスアンプの例

しかし、この出力電圧には、オペアンプの入力オフセット誤差が直接加わります。上記の例のオペアンプの入力オフセット電圧が5mVの場合、オペアンプ出力は1Vではなく1.005Vとなり、0.5%の誤差が生じます。

入力オフセット電圧ドリフト

どの電気部品にも言える事ですが、オペアンプも時間経過と温度変化によって挙動が変化します。特に、オペアンプの電圧オフセットはこの影響を大きく受けます。前述の通り、電圧オフセットは誤差要因の1つです。オフセットがドリフトすると、この誤差はさらに大きくなる可能性があります。この誤差要因は、自動ゼロセット機能に対応したオペアンプなどの低ドリフトオペアンプを選択するか、周期的にシステム校正を実行してオフセットとドリフトを打ち消す事によって、最小限に抑える事ができます。Microchip Technologyでは先立って、電圧オフセットとオフセットドリフトに対処するもう1つの方法として、「mCalテクノロジ」(図2)を採用したオペアンプファミリを発表しました。mCalテクノロジは、オペアンプのオフセット電圧誤差を修正する内蔵校正回路で、この校正回路は、起動時または校正ハードウェア ピンの状態に基づいてアクティブにできます。校正ピンを使うと、いつでも校正ルーチンを開始する事ができ、オフセット ドリフトの影響を最小限に抑えられます。

図2:mCalテクノロジを採用したMCP651/2/5オペアンプ

入力バイアス電流

トランスインピーダンスアプリケーションでのもう1つのDC誤差の要因は、オペアンプのバイアス電流です。オペアンプのバイアス電流とは、オペアンプの入力トランジスタを動作させるためにオペアンプの入力に流れ込む電流量を言います。この電流は一種のリーク電流ですが、オペアンプの入力で生じるものはバイアス電流と呼ばれます。このバイアス電流の大きさは、数pAから数百nAまで幅があります。バイアス電流は、バイポーラ入力トランジスタを使うオペアンプよりもCMOS入力段を持つオペアンプの方が小さいのが普通です。

図1に示したように、フォトダイオードから生成される電流と同様にオペアンプのバイアス電流も、RFの値を乗算したものがオペアンプ出力での誤差電圧となります。前述の例では、入力バイアス電流をバイポーラオペアンプとして一般的な100nAとすると、出力において1mV(0.1%)の誤差が生じます。MCP652のようにCMOS入力段を使った低バイアス電流のオペアンプを選択すると、この誤差を最小限に抑える事ができます。

帯域幅/周波数応答

X線管から生成された可視光線が対象物と対象物の周囲を通過する際に変動し、その結果、フォトダイオードアレイから出力される電流量が変動します。この変動を、オペアンプとその他のシグナルコンディショニング回路で正確に取り込む必要があります。従って、オペアンプの利用可能な帯域幅と周波数応答は重要です。システムに十分な速度がないと、デジタル化の前に情報の欠落または誤った伝達が起こる可能性があります。

オペアンプの出力振幅

前述の例では、フォトダイオードから出力される電流が10μA変化すると、オペアンプの出力電圧は1V変化しました。これは、5Vの単電源を使ったシステムの場合、オペアンプの出力が両方の電源レールまで振幅可能なら、0~50μAの電流レンジをオペアンプ回路で正確に検出できる事を示しています。オペアンプがレールツーレールの出力振幅をサポートしていない場合、正確に検出できる電流のレンジ全体が狭くなり、検出回路のダイナミック レンジが制限されます。

オペアンプのノイズ

CTスキャナのようなアプリケーションで使用するオペアンプを評価する際にもう1つの重要なパラメータとなるのが、オペアンプのノイズです。オペアンプのノイズは周波数分布が一様でなく、特に低周波領域では1/f雑音が顕著な雑音源である事に注意するべきです。この低周波雑音は、DCに近い入力信号を扱う場合は大きな問題となります。

医療用撮像機器が進歩を続ける中、システム設計者は次々と新しい課題に直面しています。また、半導体メーカーは、今回のmCalテクノロジーのような新たなソリューションの開発を続ける必要があります。mCalは最初の入力オフセット電圧を抑えるだけでなく、時間経過と温度変化によるドリフトに対処する手段としても有効で、これらは、CTスキャナのフロントエンド検出回路などの高い精度が要求される計測機器では重要な仕様パラメータとなっています。

著者紹介

Kevin Tretter
Senior Product Marketing Engineer
Analog & Interface Products Division
Microchip Technology