物質・材料研究機構(NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点・ナノエレクトロニクス材料ユニットの佐々木道子 博士研究員、同 後藤真宏 主幹研究員らの研究チームは、パルスレーザーを照射するだけでその領域にのみ選択的に高分子ナノワイヤを成長させることに成功したほか、同ナノワイヤに各種ナノ材料をドーピングすることでさまざまな機能性を持たせることに成功したことを明らかにした。

高分子ナノワイヤは、無機材料からなるナノワイヤ類と比べ、柔軟性が高く、かつ光学的にも透明であるため、こうした特長を生かしたセンサや発光素子、光スイッチ素子などのナノデバイスの新規分野への応用が期待されている。

従来、典型的な高分子ナノワイヤの作製方法としてはサブミクロンレベルの多数の穴が空いたポーラスアルミナ基板をテンプレートとして、その穴の中に高分子材料を溶かし込んで固化させた後に、アルミナ材料を溶かして析出させるという手法が用いられていた。しかし、同手法では、作製されるナノワイヤの直径は細くても300nm程度が限界であり、量子サイズ効果などを期待したナノデバイスへの応用は困難であった。また、エッチングプロセスが必要なため、高分子ナノワイヤへのダメージも問題と考えられているほか、ドーピングも原料に分散させられるものだけが対象となってしまうため、限定的な応用にとどまっていたこともあり、高分子ナノワイヤのナノデバイスへの展開を進めることを目指し、直径数十nmレベルへの細線化や、機能性ナノ材料ドーピングによる新たな機能性の付与などの実現に向けた取り組みが求められていた。

今回、研究チームでは、レーザー照射するだけで、その位置に高分子ナノワイヤを成長させることができる方法を新たに開発。これにより従来の鋳型を用いる方法とはまったく異なる方法で、かつ簡便に高分子ナノワイヤの作製が行えるようになったほか、多くの種類の材料をドーピングさせることも可能となり、機能性ナノ材料を含んだ高分子ナノワイヤを得ることができるようになったという。

同技術は、これまでNIMSが培ってきたレーザーテクノロジーを基盤として、大気中でのシンプルなパルスレーザー照射プロセス、レーザー光強度、レーザー照射による光励起領域を高度に制御するほか、原料となる高分子フィルム中、あるいはフィルム表層部へ機能性ナノ材料を配置する方法などの生成プロセスの最適化条件を確立したことにより実現できたという。

具体的には、ガラス基板上に必要とする高分子の薄膜を作製、その中に付加したい機能を有するナノ材料と光増感色素を分散させる。この時、分散が困難な材料であれば、高分子フィルムの表面にスプレーなどで担持するだけでも構わないという。そこに、パルスレーザー光(例えば波長440nm、900psパルス幅)、1パルスを、対物レンズを介して、光強度や集光位置を詳細に制御して照射すると、特定の実験条件を満足した場合(材料の組み合わせによって異なる)のみ、そのフィルムに垂直に機能性ナノ材料を含んだ高分子ナノワイヤが成長することとなる。

図1は、同手法により作製された機能性高分子ナノワイヤー全体の走査型電子顕微鏡写真だが、この場合、高分子材料としてポリスチレン、機能性ナノ材料として酸化鉄ナノ粒子を、光増感色素としてクマリン6分子をそれぞれ用いて作られており、直径25nm、長さ約20μmの酸化鉄ナノ粒子分散ポリスチレンナノワイヤが作製できていることが見てとれる。

図1 酸化鉄ナノ粒子を含んだポリスチレンナノワイヤの走査型電子顕微鏡写真

図2は、この細部を拡大した走査型電子顕微鏡写真だが、ポリスチレンナノワイヤに直径約15nmの酸化鉄ナノ粒子(黄色矢印)が含有されている様子が分かる。

図2 酸化鉄ナノ粒子を含んだポリスチレンナノワイヤの走査型電子顕微鏡写真(一部を拡大して撮影:粒上の酸化鉄ナノ粒子が観察される(黄色矢印))

そして図3が、同高分子ナノワイヤの同じ位置を走査透過型電子顕微鏡により電子線を透過させて観察したものだが、高分子ナノワイヤの表層だけでなく内部にも酸化鉄ナノ粒子(赤色矢印)を含有していることも確認することができる。

図3 酸化鉄ナノ粒子を含んだポリスチレンナノワイヤの走査透過電子顕微鏡像(走査型電子顕微鏡写真では観察されていない内部に含有された酸化鉄ナノ粒子が現れている(赤色矢印))

この例では、典型的な磁性材料である酸化鉄を含有することに成功したため、高分子ナノワイヤに新たに磁気的な機能性の付加が行われている。そのため、同ナノワイヤは、磁場で運動する機能を有することが予想され、例えば生物の鞭毛のような運動を引き起こし、人体血管内を移動する生体用マイクロマシンの駆動源としての応用が期待されるという。

なお、今回、開発された手法は、高分子材料種、含有するナノ材料種の選択肢が極めて大きいため、目指す応用分野を見据えて、高分子ナノワイヤの機能を付加することが可能となる。そのため、将来的には分子デバイス分野、マイクロマシン分野などへの波及効果が期待できるようになるほか、レーザーを用いた単純な生成プロセスであることから、レーザーの大面積スキャン方式や、フライアイレンズなどを用いて一度に広範囲を光照射可能にすることで、機能性高分子ナノワイヤの量産化や集積化も可能で、かつ産業応用も可能となることから、さまざまな分野での応用展開が期待できると研究チームでは説明している。