オフィス政治(職場政治)と聞くとネガティブなイメージが浮かびがちだが、「正しい」政治スキルは企業で出世するうえで必須だという。どんなに有能な社員もこのスキルがなければ成功しないだけでなく、会社が損失を負うことになる。つまり、社員が地位に即したオフィス政治のスキルを身につけることは、会社にとっても重要なことなのだ。

スタンフォード大でマネジメントについて教えるJeffrey Pfeffer教授が、「企業が成長するうえで、幹部のオフィス政治スキルは必須」というテーマでコラム(原題:Don't Dismiss Office Politics? Teach It)を書いている。

記事は、企業で人事やキャリアサポートに関わる人を対象としているが、すでに管理職に就いている人やこれから幹部を目指している人にとっても、参考になるアドバイスがある。正しいオフィス政治とは「チームのスタッフをまとめるのに必要な力」、「プロジェクトを引っ張るための政治力」であり、一度整理しておくのも悪くない。

健全なオフィス政治は関係を築く力

まずは、「なぜ幹部にオフィス政治のスキルが必要なのか」から見てみよう。記事では、営業や実務スキルがある優れた社員であっても、幹部として会社の内外の人をまとめる立場になると政治力が必要になると主張する。さらには、この大切さを理解していない人も多いと指摘している。

政治スキルといっても、「他の人を蹴落とす」、「裏工作をする」といったネガティブなスキルではなく、「人脈(ネットワーク)を構築すること」と筆者のPfeffer氏はいう。具体的には、「重要で有益な情報を持つ人」、「サポートしてくれる人」、「影響力のある人」などと良好かつ健全な関係を構築し、それを維持できる力だと説明されている。

「会社に必要を理解する力と実行する力を併せ持つ幹部がいれば、全員のメリットになる」とPfeffer氏。逆に、才能があっても政治スキルがない場合、その人のキャリアが成功しないだけでなく、会社は時間とコストからダメージを受けるという――なぜなら、その人は幹部として不足なので、代わりの人材を探すことになるからだ。

社会人になって5年目と15年目が節

米国で管理職コーチングサービスを提供するBonnie Wentworth氏によると、オフィス政治スキルがあるかどうかを検証すべき時期は主に2回あるという。初回は、個人の力で達成する初期段階から脱し、周囲の人との作業で成否が依存する仕事や役割を持ち始める頃だ。Wentworth氏は「入社5年から7年」とする。2回目は、間違えが許されなくなる頃で、社内でもシニア(課長、部長などの管理職)レベルの役職が与えられる時期だ。15年目から20年目が目安だという。

この2つの時期に正しいオフィス政治スキルがあるかどうかをチェックするわけだが、一体、何を見ればよいのだろうか?

例えば、社内で衝突が多かったり、明らかにストレスがあったりするようなら疑うべきだ。自分のやり方を貫くタイプか、周囲に気を使うタイプかも判断基準となりそうだ。リーダーとは、従業員、顧客、上司からのサポートを得ることで役割を果たすものであり、サポートがなくなった時はリーダーとして必要とされていないことになる。話し方や聞き方を通して周囲の支持を得ようとしているかどうか、改めて評価してみるとよいだろう。

「オフィス政治は避けたい」が30% - 幹部の意識改革が必要?

では、現場はオフィス政治をどう受け止めているのか? 社員側から、オフィス政治に対する考え方を見てみよう。

記事で紹介しているデータによると、「社内で何が起こっているのかを知っていることはよいことだが、直接関与したくない」が最多で54%、「オフィス政治からは遠ざかるべき」は29%もいた。「関与して物事を先に進める」という「オフィス政治積極活用派」は16%と少数派だ。

まずは、社員のキャリアに応じて、オフィス政治について正確な知識とスキルを教える必要がありそうだ。他のスキルと同様、「オフィス政治のスキルも学習により獲得できる」とPfeffer氏。日本でもコーチングという言葉が認知されつつあるが、記事でも幹部向けのエグゼクティブコーチングに頼るのもよいかもしれないと助言する。

プロから考え方や振る舞い方を教わるだけでなく、プロセスを通じて自分の価値を再評価し、不足しているものが明確になるだろう。権力を持つ人の間をナビゲートしていく方法を知るにあたって、社会心理の基本を押さえておくのも悪くなさそうだ。社会心理の基礎知識があれば、人間関係においてこれまで以上に効果的に振舞うことができる。

不安そうに見える人よりも強気に振舞う人のほうが昇進は早い。記事では自分のステータスや力を周囲に知らせることも、時には重要と記す。例えば、割り込むことができる――これは、それを可能にする力があり、周囲がそれを許している証だ。途中で割り込むという態度で自分の力を示すことで、自然とストレスホルモンともいわれるコルチゾールが減り、テストステロンの分泌が増えるという。

テストステロンは男性ホルモンの一種で、やる気や競争心を高めると言われている。逆に、受動的な役割を演じるとテストステロンは減り、コルチゾールが増えるのだそうだ。つまり、政治力を示す態度をとることは、周囲が認めるだけでなく、自分の自信にもつながりそうだ。

正しいオフィス政治スキルがあれば、キャリアは成功し、会社にも貢献できる。チームを任されるようになったら、新しいスキルとして学んでおくとよさそうだ。