名古屋大学大学院理学研究科・生命理学専攻の中野俊詩 助教らの研究グループは、線虫(Caenorhadbitiselegans:C.elegans)を用いた研究から、脳などの神経系における左右非対称性の決定に関与する新たな仕組みを明らかにしたことを発表した。同成果は米科学雑誌「Cell」(オンライン版)に掲載された。

人間を含む多くの動物では、脳などの神経構造に左右差があり、右脳・左脳にみられる機能の左右差を決定していると考えられているが、脳左右差の異常はさまざまな脳疾患の原因と考えられており、神経構造の左右差を決定する仕組みの解明は、現代神経科学の重要な課題の1つである。しかし、これまでに心臓や腸などの内臓器官における左右非対称性が決定される仕組みは解明されていたが、脳などの神経系における左右差がどのようにして作られるのかは、不明な点が多かった。

今回、研究チームでは神経構造の解析に有用なモデル動物である線虫(C.elegans)を用いて、神経性左右差を決定する仕組みの発見に取り組んだ。その結果、線虫の神経系左右非対称性の決定には、「クロマチン」と呼ばれるDNAとタンパク質の複合体の状態が関与していることを突き止めた。

これまでの研究から、左右非対称的な神経細胞の1つであるMI神経細胞は身体の右側から生まれ、左側の細胞は上皮細胞に分化することが知られていた。今回の研究では、MI神経細胞を喪失する線虫では、本来MI神経細胞となるべき細胞が左側化する異常を示し、その原因はヒストンと呼ばれるクロマチンの構成因子の異常に起因することを解明。また、クロマチン構成に必要な因子の機能を低下させても、MI神経細胞が左側化し、左右非対称性が喪失することが示された。

クロマチン構成の制御による線虫神経系左右非対称性形成

従来、クロマチンが遺伝子調節などのさまざまな生命現象を制御することは知られていたが、今回の発見によりクロマチンの状態が神経系の左右差を作り出す役割を持つことが示された。

なお、研究グループでは人間と線虫ではクロマチン構成因子が類似していることから、人間の脳左右差の決定にも同様の仕組みが関わっている可能性が高いと考えられるとしており、このことから、今後、今回の成果を活用していくことで、人間の脳の構造的および機能的な左右差の解明、ならびにそれらが関わる疾患の治療につながっていくものとの期待を示している。