名古屋大学の伊丹健一郎教授らの研究チームは、芳香族化合物とフェノール誘導体をつなげて医薬や有機エレクトロニクス材料分野における重要骨格の1つであるピアリール化合物を合成する新たな次世代型クロスカップリング反応の開発に成功したことを発表した。
ビアリール化合物を効率的に合成する手法としては2010年のノーベル化学賞の受賞でも知られるパラジウム触媒、有機金属化合物、有機ハロゲン化物による「古典的」クロスカップリング反応があり、これまで多くの化学者によって改良が行われてきた。
しかし、カップリング反応を進行させるためには、以下のような課題があった。
- 芳香族化合物から数工程で調整される有機金属反応剤(Ar-M)をカップリングパートナーに用いる必要がある
- 有機ハロゲン化物(ハロゲン化アリール:Ar-X)をカップリングパートナーに用いる必要がある
- 気象かつ効果なパラジウムを触媒として使わなければいけない
現在、クロスカップリングの進化に向けた研究の潮流は以下の3つ。
- 芳香族化合物そのものをカップリングパートナーに用いる
- フェノール誘導体をカップリングパートナーに用いる
- パラジウムに代わる安価な金属を触媒に用いる
これまで、これら3つの手法は上述した課題の番号それぞれの解決策となるが、それ以外の2つの課題を解決することはできていなかった。
研究チームが新たに開発した次世代カップリング反応は、安価なニッケル触媒を活用するとともに、入手が容易な芳香族化合物とフェノール誘導体をカップリングパートナーに用いることを可能にしたという点が特長。研究チームは2009年にニッケル触媒を用いた芳香族化合物とハロゲン化アリールのクロスカップリング反応を報告しており、これにより芳香族化合物をカップリングパートナーとして用い、かつパラジウムに代わる安価な代替材料を触媒として活用することを可能にしていたが、ハロゲン化アリールをカップリングパートナーとして用いることはできておらず、今回、新たなニッケル触媒を開発することで、フェノール誘導体と芳香族化合物を連結させ直接的にビアリール化合物を合成することに成功したという。
具体的にはニッケル・1,2-ビスジシクロヘキシルホスフェノエタン(Ni-dcype)と呼ぶ新たな触媒を用いたことによるところが大きい。同触媒は市販されている配位子(触媒の能力を調節可能な有機化合物)であるが、ニッケルと組み合わせた例はほとんどなかったという。実際に同触媒を用いると、芳香族化合物(主にアゾール類)とフェノール誘導体のクロスカップリング反応が効率よく進行することが確認された。
芳香族化合物とフェノール誘電体のクロスカップリング反応は広い汎用性を有しており、例えば複雑な骨格を有する女性ホルモンの一種であるエストロゲンや抗マラリヤ薬の素であるキニーネなども簡単に芳香族化合物とつなげることができる。
なお、今回開発されたニッケル触媒反応は、生物活性物質や医薬の合成に特化したものではないため、有機エレクトロニクス材料への応用も可能な様々な共役化合物の合成にも効果を発揮する可能性があると研究チームでは説明しており、今後、さまざまな産業分野において同反応が活用させる可能性がある。