デイヴィ・ジョーンズなどをはじめ、CGを駆使したインパクトのある生物を多数生み出してきている『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ。本シリーズの最新作『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』では、これまでに本シリーズが生み出してきた生き物とは違い、より人間的なビジュアルをしている人魚が登場する。本作のビジュアルエフェクトスーパーバイザーであるベン・スノウならびにアーロン・マクブライドに本シリーズのCG制作について話を聞いた。
――これまでに数多くのハリウッド大作を手掛けてきたと思うのですが、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』の製作にあたって心がけたことはありますか?
ベン・スノウ(以下、ベン)「常に何か違うことをしたいと思っています。学んだことをすべて自分のものにして、新しいことに応用して、できる限りのことをしたいと考えています。自分の仕事が良い物語を生み出すのに役立ってほしいし、今回はそうだったと思いますが、観客が良い反応をしてくれるものを作りたいのです。ですから、観客がこれほど好意的に反応してくれたことは素晴らしいです」
――本シリーズの過去3作では、華々しい視覚効果シーンに驚き、魅了されましたが、最新作では、空も海も街も、とても本物らしく自然に見えます。これは、この作品では視覚効果をあまり使用していないということなのでしょうか?
ベン「製作サイドには、この作品を完全なファンタジーではなく、よりアドベンチャー的要素の濃いものにしようという決定があったと思います。実際、私はこの作品のストーリーやスタイルのそうした面がとても気に入ったので、本当に満足しています。ある意味、その点では『パイレーツ』の第1作に回帰したような気もしています。特殊効果をあまり使わずに―おそらく過去の3作よりも特殊効果は少ないでしょう―過去の作品の伝統を守れるように、できる限りいいものにしようとしたのです。ですからこの作品は単なるスペクタクルやビジュアルエフェクトだけでなく、もっと全体的な完成度を追求しているのです。もちろん、そうした要素も素晴らしいのですが、この作品はそれよりも登場するキャラクターやストーリーを重視していて、全体としてとてもいいものになっていると思います」
――そのなかでも、本作に登場する人魚のCGは見事でした。
ベン「人魚の製作は本当に難しかったです。人魚を正しく動かす、つまり尾びれを使って泳がせるためには、新しい技術が必要でした。脚を持つ人間が衣装を付けているようには見せたくなかったので、それを可能にするテクノロジーを開発したのです。また、もちろん人魚の肌の見え方についても、多くの研究を重ねました。魚市場で魚を買ってきて、さまざまな角度から写真を撮りました。そしてアーロンが、水族館の魚を写した素晴らしい写真を見つけたのです。魚は光の中を出たり入ったりしながら泳ぎ、光を捉えます。光が当たると鱗が見え、光が当たっていない時は鱗が見えないのです。これは人魚がグロテスクになり過ぎないようにするという課題に対処するのに非常に役立ちましたが、非常にトリッキーなCG素材に取り組む必要もありました。ですから、こうしたリアリズムの達成は、まさに挑戦でした」
――デイヴィ・ジョーンズとその手下たちなど、これまで生み出してきた『パイレーツ』の他のキャラクターと人魚では制作にどのような違いがありましたか?
アーロン・マクブライド(以下、アーロン)「『パイレーツ4』でおもしろいのは、この作品では人魚などの生物や主な脅威が美しいことです。これまでの『パイレーツ』の世界で確立していた美の概念では、そうした生物は呪われた、醜い存在でした。第1作では死体や骸骨、第2作、第3作では見るに堪えない恐ろしい様子で海洋生物と融合した、突然変異による奇形の生物が登場しました。今作では、人魚は生物でありながら、可能な限り魅惑的で魅力的である必要があったのです。ですから、アートワークにおいて美という点で最も困難だったのは、肌のテクスチャーといった、その存在をよりリアルに見せるために加える特徴が、同時にその魅力を奪うものにもなり得るという点でした。ですから、人魚に鱗などの海洋生物の特徴を加えるのは、気味が悪くなる寸前でやめなければなりません。ですから私たちは、人魚の持つ海洋生物的な特徴をごく控えめにしなければなりませんでした。そうでないと、あっという間に魅力的でなくなってしまいますから。監督にいつも言われていたのは、人魚は美しく、魅惑的な妖婦でなければならないということでした」
――これまでの『パイレーツ』シリーズでは、海賊たちが海を進む時のダイナミックな渦とうねる波が素晴らしかったですが、今作では波はとても自然で、特に人魚のシーンではきわめて自然に見えました。
ベン「特別な視覚効果を使用しなかったわけではありません。実際私たちは多くの効果を使っています。おそらく他の映画よりも多くのテクニックを組み合わせて使っていると思います。実際のアクションを使用し、本物の人間が水しぶきを上げるところを撮影し、後で黒いタンクの周りで黒い衣装をつけた人が上げる水しぶきだけを撮影し、水しぶきだけを使用しました。そしてCGで合成した水も使用しました。つまり本物らしく見せるために色々なテクニックを組み合わせたのです」
――ハリウッドの演出と言えば、煙、爆発、水の3つがまず思い浮かびますが、やはり、この3つはシーンを作る上で重要なファクターですか。
ベン「水は間違いなく難しいです。煙はかつてほど難しくはなくなってきました。実際、私たちは常に新しい挑戦を求めています―常に新しいことに取り組むのが好きなのです。ですが、火と煙はこの数年で格段に簡単に扱えるようになりました。水は相変わらず非常に難しいのですが、それでも昔よりは楽になったので、常にもっと斬新なものを見つけるために、あらゆるものを試しています」
――ありがとうございました。
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